自民党と維新が今日にも政策協定を結ぶ。党勢拡大に行き詰る維新には他に選択肢がなかったが、過去の事例を参照すると自民党と協力した政党はその後失敗するというジンクスがあり、今回は閣外協力にとどまるようだ。それでも今回の制作協力は連立と表現されている。維新は自分たちは与党であり、これは連立政権だと主張しているからだ。
今後、維新は支持率を睨みつつ自民党との距離を調整してゆくのだろう。つまり高市政権は成立しても維新にはしごを外される可能性がある。
今回の「連立」政権がどんなものなのかを最もよく表している表現がBloombergにある。様子を見ながら「将来の入閣も検討」するという。これまで与党小選挙区はプラチナチケットとみなされていたが本音では協力したくてたまらない政党が協力をためらうほど将来がない状況に置かれている事がわかる。
19日の共同通信の報道によれば、両党は20日にも連立政権の合意書に署名する見通し。維新は入閣せず当面は閣外協力とし、政策実現が進めば入閣も検討。遠藤敬国会対策委員長が首相補佐官を兼務することも検討しているという。藤田氏は遠藤氏を巡る報道についてはコメントを避けた。
自民・維新連立、20日合意へ最終調整-維新は「閣外協力」有力に(Bloomberg)
前回ご紹介したように、今回の連立・閣外協力は村山政権から第二次橋本政権までの流れと比較されることになるだろう。村山富市総理大臣が実現したはいいものの社会党の支持者たちは「自民党と戦わない社会党」が気に入らなかった。またさきがけの武村正義氏も「改革者」としてのブランドを失ってしまい第一次橋本内閣と第二次橋本内閣の間で起きた選挙で大敗している。
前回の閣外協力は惨敗の後の後退だったが今回の閣外協力はこの逆である。
つまり一度お試しをしてみて結果が出れば入閣を含めた連立を検討するということになる。「改革者」としてのイメージを温存しつつ実質的な大阪への利権誘導である副首都構想などを進めたい。
しかしながらそもそも「大阪都構想」から「副首都」への流れは、大阪府民が衰退を自覚しつつかつての栄光を忘れられないことを意味している。
言うまでもなく大阪は淀川と瀬戸内海の結節点にありコメの集積地として栄えた。江戸時代の経済ではコメが通貨のような役割を果たしていたため大阪は日本の金融センターだった。この蓄積から企業投資が行われ、繊維と家電産業が発展し大大阪の基礎が作られた。
大阪の没落はこうした産業が海外に流出したことに起因している。つまり国内投資を呼び戻さなければ大阪の復活はない。
しかし大阪ではまともな政治言論が発達しなかった。このため「大阪も東京みたいになればまた繁栄するのではないだろうか?」と考える人が多いようだ。確かに大阪都心部は開発がかなり進んでいるようだが「結局潤うのは大阪市だけ」という声も聞かれる。
しかし大阪から「かつてのものを取り戻す」以外のビジョンが出てくる気配はない。維新は万博の次のプロジェクトを求めており、時の勢力にあさましく擦り寄るしかなかった。
皮肉なことにこの維新の動きは大阪の衰退を加速させることになるだろう。
維新は改革政党から既得権政党に成長したために「恩恵」を受ける立場だが、すでにチーム未来が指摘しているが、今回の「改革」は新しい人材の国会参入を阻害する。ただし、これまでも勢いに流されじっくり政治問題を考えてこなかった一部の大阪の有権者にこうした事情を理解させるのは難しいかもしれない。
自民党はもともと小さな利権組織の集合体に支えられている。しかしながら失われた30年の間に利権組織は活力を失い「延命」を求めるようになった。
アメリカ合衆国の事例などを参照すると、企業からの透明性の高い政治献金が必ずしも悪いことだとは思わないが、日本では活力を失った組織の延命に多くの資金が振り向けられている。つまり企業と政党の結びつきが強すぎるために、日本を再成長させる創造的破壊が進みにくくなっているのである。
大阪維新は改革政党であるという自己宣伝を行いつつも、実際には死にかけた既得権の延命に力を貸している。
これがよく分かるのが大阪自民党と維新の関係である。
大阪維新は議員定数の削減を訴えている。これはおそらく比例の削減につながるだろう。維新は「大阪の選挙区さえ守ることができれば良い」と考えている可能性が高い。ところが大阪には当然自民党の支部もある。維新と自民党本部が結びつく中で自民党府連は消滅の可能性を意識し始めている。
大阪は今やよくある地方の一つに過ぎず中央からの分配を求めて自民党府連と大阪維新が枯れつつある井戸の水を争っているのだ。
高市早苗新総裁と吉村洋文代表はこうした危うい状況を背景に、それでも日本の改革が進んでいるかのような説明を続けなければならない。結局は世論調査だけがこの連立のような連立でないような政権を支えることになる。
とはいえ立憲民主党が政権を担えるとはとても思えない。このため「まずは成功を祈る」としか書きようがない。
