自民党と維新の連立構想がまとまりつつある。メディアは連立政権だと書いているが維新は閣内協力はしないという不思議な「連立政権」になる。過去、第二次橋本内閣で閣外協力の事例があるそうだがこのときは連携が後退したため「連立は解消された」と理解されていた。
今回の一連の流れでは、維新の本音と建前がうまく使い分けられており、吉村洋文代表のサウンディングと一人歌舞伎は大成功だったといえるだろう。このエントリーでは分析は最低限に抑えてこれまでの流れを整理したい。
大阪・近畿圏の外で躍進できず生活向上に期待する現役層を国民民主党や参政党に奪われつつあった維新にはもはや後がなかった。このため「大阪回帰」「利権誘導」政党に舵を切ることを決めた。そのためには政権と近づく必要があるが、政治とカネの問題や財源問題からは距離を置く必要がある。責任はできるだけ取らず成果だけを受け取るという与党でも対決型の野党でもない「ゆ党」戦略が最も適切だ。
もう一つの特徴はSNSを背景にした「風の時代」にふさわしい政党のあり方だ。世論の流れは日替わり・週替りなのでそれに合わせて素早く態度を転換させるピボットが求められる。
大阪維新は菅義偉氏の主導のもと小泉首班を前提に情報収集に務めていた。しかしメディアに持ち上げられた小泉陣営に気の緩みが生じまさかの敗北を喫してしまう。麻生太郎氏は連合を取り込むために国民民主党と連携したいと考えており、自民・維新連携は風前の灯と思われていた。
しかし、公明党の離脱により突然風向きが変わる。
高市自民党執行部は国家神道や仏教系新興宗教がバックにいる日本会議との関わりが深い。一方で公明党は国家神道の政教一致に弾圧された経緯がある。このため創価学会は高市早苗新総裁との連携を快く思っていなかったようだ。次第に「離婚前提」の議論が進むが高市早苗新総裁はその兆候に気が付かなかった。
総理大臣になれないかもしれないと慌てた高市執行部は国民民主党・維新との連携話を再始動させる。ここで維新と国民民主党に違いが出た。「総理大臣になりたい」という玉木雄一郎氏の発言が彼を逆に縛ることになる。
- 玉木雄一郎氏は総理大臣への意欲を隠さないが、自民・立憲どちらと組んでもうまく行かない可能性があるとわかっていた。このため発言は勇ましいが行動力が伴わず「覚悟がない政治家」との印象がついた。
- 一方で吉村洋文代表は「自分たちは有権者のみなさまのための政治がしたいだけであって、ポジションはいらない」と主張した。実際には距離を置くための発言だが「自らを捨てて大義のために邁進する立派な政治家だ」ということになった。またアウトサイダー(部外者)の地位を活かし「国会議員にも身を切る改革が必要」と大見得を切った。
吉村代表の発言には矛盾点も多い。自民党とは閣外で協力するが国民民主党に対しては「責任から逃げるのか」などと言っている。しかし勢いがあると意外とこうした矛盾は大きな問題にならない。
食品消費税0%は取り下げ、政治とカネの問題も企業団体献金問題から議員定数削減問題にすり替えられた。今回の協定で「自民党は実現のために努力する」と言っているが、これは永田町用語では「やりません」という意味になる。
連立に向けた政策協議で維新が求めていた食料品の消費税率0%への引き下げと、企業・団体献金の廃止について、自民が実現に向け努力する方針を示すことで折り合った。両党幹部が17日夜に東京都内で会談して確認した。高市、吉村両氏も合意を了承している。
【独自】自民・維新、連立政権20日合意 閣外協力、高市首相選出へ(共同通信)
高市早苗新総裁は維新を閣内に閉じ込めておきたいのだろうが、維新は閣僚の提供に応じず、代わりに遠藤敬国対委員長を首相補佐官に起用する方向で検討が進んでいる。利害調整には応じるが責任は取らないという意味だが「大臣のポジションは求めない」から立派なことだと言う印象になる。
過去にも閣外協力はあったがこのときは連立政権とは呼ばれなかった。
社会党支持者の中には「社会党は自民党の対抗勢力であるべきだ」という考え方が根強く、さきがけも改革政党として期待されていた。ところが村山内閣(社会党首班)と第一次橋本内閣で次第に既存支持者の支持を失ってゆき選挙で惨敗してしまった。このとき社会党とさきがけは閣外協力に転じたため「連立が解消された」と解釈されている。
維新はこうした過去に学びつつ埋没を避けているという見方もできるが、これまで野党だった政党が政策協定を結んだことで「連立」と表現されることになりそうだが、この呼称は次第に修正されるかもしれないと感じる。
