立憲民主党と国民民主党の間の政策協定が破綻した。国民民主党はそもそも立憲民主党と連携するつもりはなかったと思うのだが、これとは独立した問題として「そもそも安倍政権はなぜ無理がある解釈改憲に踏み切ったのか」という問題が残る。当初トランプ大統領の無理な働きかけがあったと思い込んでいたのだが、実は解釈改憲と安保法制整備はオバマ政権のときに行われている。
これまでは具体的な記事がないとなかなか引用が難しかったのだが、AIを使うと合理的推論ができる。そこで改めて解釈改憲の背景について調べてみた。
バラク・オバマ大統領は表向きは平和を指向する大統領ということになっており、核兵器廃絶に向けたプラハ演説でノーベル平和賞を取っている。また2010年には外交を重視する新しいドクトリンを出している。
米、協調外交を前面に オバマ政権初の「安保戦略」発表へ(日経新聞)
このためオバマ大統領が日本に対して強硬な働きかけをするというイメージはしにくい。ところが実際にはオバマ政権は次第に政権運営に行き詰まりつつあった。オバマ政権は新しいドクトリンに従って軍事費削減を行うのだが、議会共和党は納得しなかった。
オバマ大統領はリーマンショックからの景気回復に手間取っておりオバマケアも反発された。結果的にわずか2年目の中間選挙で敗北し「上院と下院がねじれた」議会構成になっていた。下院から突きつけられた2011年の予算削減法は非常に厳しく「今後10年間で少なくとも1兆5000億ドルの財政赤字削減策を策定する」というものだったそうだ。
しかしスーパー委員会の歳出削減反全く進まず、オバマケアに反発する共和党が主導して2013年10月に政府閉鎖が発生した。
特に財政的プレッシャーが大きかったのが国防総省の予算だったわけだが「故意に不愉快になるように」設計されていたそうだ。このあたりはもはやAIでなければわからないところだろう。共和党は民主党が嫌がる福祉予算をターゲットにし、民主党は共和党が嫌がる軍事予算をターゲットにしたのだという。段階的予算削減策をbudget sequestrationというそうだがblunt instrument(鈍器)とかdesign to fail(失敗するように仕組まれた)などと評価されているようだ。
実はこの頃からアメリカ合衆国が安倍政権に対して「応分の負担」を求めてきた。安倍政権はこれに屈する形で2014年7月1日に集団的自衛権の行使容認を閣議決定。これが「解釈改憲」と言われた。さらに2015年9月に平和安全法制が成立し、日本の自衛隊がアメリカ軍の補完勢力として日本の区域以外でも活動できるようになった。
つまり当時の状況を踏まえると、日本の解釈改憲の原因は軍事・安全保障戦略ではなく財政問題だったということになる。
しかしながらこの間もオバマ大統領は表向きは「平和指向の大統領である」というイメージを崩していない。日本はあくまでも自発的にアメリカ合衆国に協力を申し出た事になっている。つまりアメリカ合衆国から強いプレッシャーがあったと説明しにくかったということになる。
村上誠一郎氏は安倍総理が「日本が集団的自衛権の容認を決めた頃から何も言ってこなかった」と発言したと主張している。仮にこれが正しかったとしても、オバマ政権が何も言ってこなくなったのは、具体的な危機があったわけではなく、議会対策として説明がつくようになったからであると考えることができる。
ちなみにこうした努力は議会共和党のオバマ大統領に対するパフォーマンス(あるいは嫌がらせ)にすぎず、軍事費の削減も財政赤字の削減も進まなかった。議会共和党はトランプ大統領に嫌がらせをする必要はなかった。
現在の政治議論はトランプ大統領とオバマ・バイデン大統領を対極において比較することが多い。ところが実際にはどちらもお金に困っており強いアメリカ・平和を指向するアメリカというブランドを守りつつ各国に応分の負担を求めざるを得ないという事情がある。
その意味ではわかりやすい「いじめっ子ぶり」を発揮するトランプ大統領よりも、表向きは「いいかっこしい」だが裏ではプレッシャーを高めてくるオバマ大統領のほうが悪質で厄介だという評価もできるのだろう。
ただし結論としてはいかなる事情があろうが、安倍総理が誠実に説明をしなかったことが結果として現在の政治混乱の原因になっているといえるだろう。安倍総理が説明した「具体的な集団的自衛権の使用例」はそもそも根拠がなかった可能性が高い。
