9,100人と考えAIとも議論する、変化する国際情勢とあいも変わらずの日本の行方


メディアが語らない連立与党の「宗教戦争」的要因

11〜17分

イイネと思ったら、Xでこの投稿をシェアしてください

現在の日本政治には巨大な像がいる。日本は30年間成長していないが政治は何も手を打ってこなかったという事実である。このため公明党の連立離脱をきっかけにした政局ではそれぞれの政党が事実を自分たちの都合のいいように解釈、支持者たちはそれぞれ異なる「事実」を主張するためそもそも議論がかみ合わない。

今回は公明党の虚実について考える。高市総裁に対する反発の背景にある宗教要素だ。あくまでも政教分離の原則から「政策問題である」という建前を崩していないが、おそらくそれは全部を説明しきれていない。ちょっと調べればわかることなのでメディアが知らないはずはないが「触れると面倒だ」と思っているのだろう。

公明党は国民民主党のピボット戦略が羨ましくなった。野党として首班指名に協力することはないが政策は連携したいと言っている。与野党の都合の良いところをつまみ食いするゆ党戦略こそが少数政党が生き残る道で、実際に維新と国民民主党はこの戦略で成功している。

ただし、今回の公明党の離婚劇はどうもゆ党戦略・ピボット戦略だけでは語れないところがある。

斉藤鉄夫代表は「高市早苗の次は連立協議をやり直してもいい」と明言している。高市早苗総裁には「誰が総裁でも同じように接した」と説明したようだが、実は高市早苗が気に入らないとあからさまに示してもいる。

これを受けてネットでは噴飯ものの議論が展開された。

  1. 高市早苗氏は誇り高い日本を取り戻すという安倍晋三先生の偉業を引き継いでいらっしゃる。
  2. それを邪魔したいのは中国共産党。
  3. 高市早苗氏の敵対勢力は小泉進次郎。
    • そういえばメディアは小泉推しだった
    • 政権を離脱した公明党は中国共産党の手先に違いない。
    • それを囃し立てる田崎史郎は実は創価学会の信者に違いない。どうも前から様子がおかしかった。

結果的に「信者に違いない」が取れてしまい「田崎史郎は創価学会信者」という確定情報も流れているようだ。かつての「在日認定」に似ている。根拠は田崎史郎氏の「僕ら公明党」という発言だそうだ。これが信仰告白だというのである。Xでもトレンドとしてまとめられている。

こんな面倒な理論を持ち出さなくても公明党が高市早苗氏の何を嫌っているのかを想像するのは難しくない。高市早苗総裁は古屋圭司氏を選挙対策のトップに据えた。読売新聞は「兄貴分」としているがなんの兄貴なのかは書いていない。実は古屋さんは日本会議国会議員懇談会の会長で高市早苗総裁は副会長だ。

日本会議は日本に国家神道的な秩序を取り戻そうとする運動体。天皇を日本の父として国家神道を中心にした「一家」の秩序を取り戻したいと考えるイデオロギーである。男女同権に疲れ果てた男性の中にはこうしたイデオロギーを支持する人は多いのではないか。

ところが創価学会はこの国家神道とあまり仲が良くない。日本の仏教は江戸時代に民衆管理の役割を負ってきた。このため明治維新当時に廃仏毀釈運動が起きる。その後の日本は西洋のキリスト教に対抗して在来宗教であった神道を国家のイデオロギーとして育てようとする。その中で生まれたのが国家神道である。

日蓮正宗も国家神道に取り込まれてゆくのだが、信徒たちの中にはこれを快く思わない人たちがいた。その一人が牧口常三郎だ。日蓮正宗の対応を批判し「思想犯」として獄死した。

この話はよく知られている。つまりメディアの人たちが知らないはずはない。おそらく面倒くさい話題だと思われているのだろう。

弾圧を恐れて国家神道を受け入れた日蓮正宗宗門を牧口先生は厳しく諌め、軍部権力と敢然と対峙していきます。1943年(昭和18年)7月6日朝、牧口先生は訪問先の伊豆で、治安維持法違反・不敬罪の容疑で検挙されました。同日朝、理事長だった戸田先生も東京で検挙。ともに逮捕・投獄され、会は壊滅状態となりました。牧口先生、戸田先生は、厳しい尋問にも屈せず、信念を貫く獄中闘争を続け、牧口先生は1944年11月18日、創価教育学会創立から14年後のその日、老衰と極度の栄養失調のため、拘置所内の病監で逝去しました。満73歳でした。

初代会長・牧口常三郎先生(創価学会)

創価学会・公明党は「政教分離に反している」と言われることがあるが実は戦前の政教一致に弾圧されていたという複雑な歴史がある。

このような歴史を見ると「そもそもこれまでよく連立与党として成立していたなあ」という気さえする。根本に国家神道に対する不信感がありながらも菅義偉氏らのパイプによってかろうじて維持されてきたという側面があるのだ。

その意味は古屋圭司氏が選挙対策の責任者になり日本会議国会議員懇談会の一因でもある小林鷹之氏が政調会長になったということは、これからの自民党の選挙・政策は「国家神道」的な発想を重視しますよという明確な意思表示だった。

麻生太郎副総裁には天皇後継問題の取りまとめを期待している。天皇の外戚に男系天皇問題を取りまとめさせようとしているのである。これも万世一系をイデオロギー的に重んじる国家神道にとっては重要なテーマだ。日本は一つの家であり父親によってまとめられなければならない。

党本部で記者団に「(副総裁就任を)お願いをするときに、皇室典範の問題もきっちりとやってほしいとお願いした」と説明した。

皇位継承対応、麻生氏に 高市自民総裁(時事通信)

メディアはそもそも「宗教について踏み込むと面倒なことになる」と考えているようで、あまりこの側面には触れたがらない。宗教イデオロギー対立なのだからきちんと選挙をやって国民の判断を仰ぐというのは大切なことなのかもしれないが、この場合日本国憲法が軛になる。

第二十条

  1. 信教の自由は、何人に対してもこれを保障する。いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない。
  2. 何人も、宗教上の行為、祝典、儀式又は行事に参加することを強制されない。
  3. 国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない。

憲法秩序を別にしても、高市自民党は有権者の半分を占める女性たちに「男性に従って序列社会を生きたほうが幸せなのだ」ときちんと説明しなければならないだろう。隷属しろとは言わないが自分たちから従ったほうが身のためですよという説明になるはずである。女性有権者たちはこれを女性総理大臣(か総裁)から「説明される」ことになる。

また経済よりも価値観のほうがずっと大切なのだからお腹が空いてもイデオロギーの整理を優先せよと国民を説得する必要もある。

できるものなら、一度思い切りやってみればいいと思う。