共同通信によると今年のノーベル平和賞はアメリカ合衆国で大いに注目されたそうだ。トランプ大統領が取らないという事実を確認したい人が多かったのだろう。ノーベル平和賞が注目されるのはおそらく政治的に中立だとみなされているからだとは思うが、実際にはかなり現代・近代ヨーロッパのイデオロギー的な色彩が強い。
今年のノーベル平和賞はベネズエラの野党指導者のマリア・マチャド氏に送られた。ベネズエラではマドゥロ政権が政敵を抑圧し民主的な選挙を妨害している。ノルウェーの選定委員会は「世界的に民主主義が後退して」いるという認識を持っており、その象徴としてマチャド氏を選んだようだ。
マドゥロ大統領はトランプ大統領から政敵扱いされており、アメリカ議会の議員たちもマチャド氏にノーベル平和賞を送るべきだと推薦状を出しているという。その中には左派を敵視するルビオ議員(当時)も含まれていたそうだ。平和賞選定委員会は表向きはトランプ大統領からのプレッシャーは感じていないと主張しているが実際にはかなり批判を意識していた可能性がある。
現米国務長官のルビオ氏ら米上下両院議員は昨年8月、「民主的統治の回復への貢献」を評価し、マチャド氏を平和賞候補に推薦したと発表していた。
ノーベル平和賞にマチャド氏 ベネズエラの女性野党指導者(共同通信)
今回の発表ではベネズエラの指導部が批判されており、ノーベル平和賞は「民主主義至上主義」という価値観に基づいた賞であるということがわかる。
委員長はさらに、ヴェネズエラの指導部を批判し、同様の傾向が世界各地で見られるとも指摘。「支配者が法の支配を損ない、自由な報道を沈黙させ、批判者を投獄し、そして社会が権威主義的な統治と軍事化へと押しやられている」とも述べた。
ノーベル平和賞はヴェネズエラの野党指導者マリア・コリナ・マチャド氏に 「民主主義の核心」と委員会は強調(BBC)
同じような事例としてアウンサンスーチー氏にもノーベル平和賞が送られている。当時軟禁状態に置かれていたアウンサンスーチー氏だが政権を奪取するとロヒンギャ難民に対する人権侵害の疑いが持たれた。平和賞選定委員会は「ノーベル平和賞を剥奪することはない」と宣言している。
党派性を嫌い「中庸」を好む日本人はノーベル賞に中立的な正義を求めがちだが、実際のノーベル平和賞は決してイデオロギーから独立した「中立な賞」ではないと知っておくべきだろう。
トランプ大統領はこの賞を「なにかのブランド」のように認識しているようだ。今回のノーベル平和賞関連の議論の中で、オバマ大統領のノーベル受賞に嫉妬してノーベル平和賞に固執するようになったとする論評がいくつも見られた。オバマ大統領が獲得したブランドを自分は獲得できていないという気持ちがあるのだ。
マチャド氏はトランプ大統領がマドゥロ政権を追い落としてくれることを期待し「この賞をトランプ大統領に捧げる」としているがホワイトハウスは今回の受賞についてノーベル平和賞を批判している。
Bloombergは今回受賞を逃したことでトランプ大統領の怒りがどこに向かうのかを気にしている。ノーベル平和賞への執着がなくなってしまえば、ガザ和平協議をおもちゃのように放り出してしまう可能性もあるからだ。
世界平和はトランプ大統領の名誉欲によってかろうじて維持されている。
