日本のニュースばかり見ている人は「日本の行き詰まり具合をネガティブに伝え過ぎだろう」と思っているかもしれない。しかし経済が行き詰まっているのは世界的傾向。日本は過去の蓄積と分厚い「国家社会主義的な制度」があるので「失う恐怖」にさらされているだけともいえる。
このエントリーでは主にフランスの状況をお伝えする。内閣が総辞職した。組閣から14時間後の出来事だったそうだ。マクロン大統領は「ギブアップせずに48時間粘れ」と首相に申し渡したが打開もめどは立っていない。
アメリカ合衆国の状況は比較的詳細にお伝えしている。トランプ大統領と民主党の間に「政治内戦」と言っても良い争いがあるが、その背後で治安がかなり悪化している。
大きく分けて拡大自殺的な動きと政治的暴力があるが、いちいち挙げていると大変なのでまとめて伝えることが増えた。この1日で次のような事件が起きている。
- サウスカロライナの判事の家が放火された
- ワシントンDCの大聖堂の近くで火炎瓶を持っていた男が捕まった
- アラバマ州の州都モンゴメリーで口論が銃撃事件に発展し2名がなくなった
- サウスカロライナ州立大学で銃撃事件が起き1名がなくなった
トランプ大統領の好戦的な姿勢が「自分たちの主張を通すためには暴力も肯定されてしかるべき」という空気を生み出し政治的暴力が1960年以来の伸びになっている。ただ政治的暴力が蔓延するとそれが拡大自殺に結びつく展開だ。
ネパールとインドネシアではONE PIECEの旗を掲げた反政府運動が起きている。フィリピンや東チモールでも目撃情報があると生成AIのGEMINIが指摘する。経済不調によってチャンスが得られないという閉塞感を抱える若者たちが放棄している。フィリピンでは幽霊事業を巡って激しい抗議運動が起きている。東チモールでは学生たちが議員の終身年金システムを崩壊させたそうだ。
彼らの旗頭になっているONE PIECEは1997年連載開始。バブルが弾けて数年経っても就職氷河期が収まらず「仲間と助け合って難局を乗りきる」という機運があった時代。今回の総裁選挙で「仲間の大切さ」を謳っていた小泉進次郎候補の少年時代だ。
ONE PIECE運動の担い手は小泉進次郎氏の次のZ世代(1990年代後半〜2010年代初頭)だ。SNS経由で運動を展開している。ONE PIECE運動には核がなくSNSを通じて自然発生的に拡大する。
モロッコでも全土でZ世代による抗議運動が活発化しており死者も出ているがモロッコとしてはかわいいほうの騒ぎなのだそうだ。今回はFIFAワールドカップの巨額投資に対する反発が広がっているのだという。
このように世界各地で「生活に対する不安」が渦巻いている。これは合理的なものというよりも生理的な反応だ。ところがこれがまとまるためにはイデオロギーという核が必要になる。イデオロギーが発展していない国ではマンガが使われるが、フランスのようなイデオロギー対立がある国では便宜的な左右分裂が起きる。
フランスでは今の政府とマクロン政権に対する不満が溜まっている。実際にまとまった人々を動員するのは左派と労働組合なのだが一度火が付くとこれまで左派に共感してこなかった「普通の市民」が極右に扇動されて動きに加わる。結果的にONE PIECEに代表されるZ世代が目立つ訳ではないが「思想的核と中心人文物がいない」という意味では中進国の混乱と変わらない。
これは左派的な運動として始まったれいわ新選組が火をつけた運動が極右的な参政党に引き継がれたのに似ているかもしれない。「仲間が次々に参政党に流れた」ことを嘆く自民党の中堅党員が高市早苗氏を熱心に支援したと言われているが、田崎史郎氏に代表される日本のメディアはこの動きを掴みかねていた。
そんなフランスでは極右が議会選挙で大勝した。しかしフランスは2回投票制度を取っている。2回目の選挙では左派とマクロン政党の間で選挙区調整が行われ右派の勝利が抑えられた。当然右派は「今の政府を転覆してもう一度選挙をやれば躍進できるだろう」と考えるようになった。
フランスの議会には勝者がおらず、極右と左派が協力する兆候も見られない。ただ今の政府を打ち倒すためだけには協力するという不毛な協力関係だけが生まれている。
マクロン大統領はなんとしてでも次の総選挙は避けたいところ。そこで首相を入れ替えて組閣をやり直させることにした。それが2週間前の出来事だった。ついに組閣名簿が出来上がったが「前の内閣と変わらない」内容に極右と左派が反発14時間の短命で総辞職となった。
組閣を巡っては「右よりすぎる」とか「もっと右寄りにすべきだ」などの意見が噴出していたという。既存政党が核のない抗議運動に煽られて動揺しているのだ。今後自民党が陥るかもしれない動揺に似ている。
マクロン氏にとって過去2年で5人目の首相だった同氏はここ数週間、主要政党との協議を重ね、5日に新内閣を発表、6日に初閣議を開く予定だった。しかし内閣の布陣に対して「右寄りすぎる」との批判や「もっと右寄りにすべきだ」との批判を与野党から浴びていた。
ルコルニュ仏内閣総辞職、異例の短命 政局混迷深まる(REUTERS)
ルコルニュ首相の気持ちは折れてしまいマクロン大統領に「もう無理です」と伝えたが、マクロン大統領は「もう48時間粘るように」として辞表を受け入れなかったようだ。
フランスの期末は年末で予算の提出期限は10月13日だそうだが、そもそも予算どころか予算を決める内閣すら決まっていない状況に陥った。フランスの資産は大幅に下落しておりヨーロッパ経済にも悪い影響が出るのではないかとされている。
日本の政治状況を見ると「現在の状況を打開できる」と思っている政治家はおらず責任を他人に押し付け合っていることがわかる。ただし日本には過去の蓄積と「1940年体制」といわれる国家社会主義的な年金・健康保険システムがあるため問題の表出は「(各国と比べれば)かなり穏やか」な印象だ。
一方で同じく核のないSNSベースの「革命」が起こりかねないアメリカ合衆国はANTIFAなどの「内なる敵」をでっち上げている。当ブログではトランプ大統領の無茶苦茶な性格をアメリカ合衆国混乱の理由として挙げることが多いが、市民が持っている破壊衝動がシステムを攻撃しないように何とかやり過ごすしかないということなのかもしれない。
いずれにせよ「まともな民主主義による解決」を指向するフランスの政治は大混乱に陥っていて、金融市場も吊られて動揺している。
