高市早苗新総裁が「私はワークライフバランスを捨てる」「皆さんには馬車馬のように働いてもらう」と宣言した。「あほちゃうか」と思った。仮に主張を通せば高市早苗総裁は日本を崩壊させるだろう。一方で立憲民主党の「ワークバランス重視」もしょせん他人事だった。
アメリカ合衆国はヒラリー・クリントン氏もカマラ・ハリス氏もガラスの天井を破れなかった。このためABCニュースは「あの男性優位の日本で女性が総理大臣になるのか」と驚きを持って伝えている。しかし日本ではあまり「女性初の総理大臣」という要素はフィーチャーされていない。当の女性たちがこの動きを歓迎していないからである。しかしながら「なぜ歓迎していないか」について言語化した人は少ない。
高市早苗氏は夫婦別姓に反対しているが、実際には夫の山本拓氏が「高市姓」を選択している。政治家としては「別姓」を使っており「言っていることとやっていることが違う」政治家である。
鯖江市長の息子である山本拓氏は一度結婚していてお子さんもいらっしゃるそうだ。一人は県議会議員をやっている。おそらく山本家そのものは跡取りには困っていないのだろう。
そんな山本拓氏だが実は5月に脳梗塞で倒れている。高市早苗氏はご自身で介護をしていたそうである。つまり「ワークライフバランスを顧みない」という発言の裏には夫の介護という深刻な問題が含まれていた可能性が高い。国会議員たちは事情を知っていたはずだ。それを知ってから石破総理のスピーチを聞くと趣き深いものがある。
野田聖子氏は女性であることを選択して総理大臣候補とみなされなくなった。また寺田学氏は母親の介護や子育てを考えると夫婦で政治家は無理であると結論付けた。つまり日本には「家庭のことに気を取られるようでは本物の仕事はできない」という神話が呪いのようにまとわりついている。
高市早苗氏は1961年生れで男女雇用機会均等法世代に当たる。雇用機会均等という言葉は名ばかりで「女性という属性を捨てなければ総合職としてやって行けなかった」時代でもあった。
高市早苗氏の言葉や意思決定の端々にはこの「第一期総合職の女性」の価値観が染み付いている。時任三郎が24時間戦えますか?と問い、キャリアウーマンの山口美江が「実はしば漬けが食べたかった」時代である。
つまり高市早苗新総裁が伝えているメッセージは女性を捨てなければ一流になれないというもの。高市氏が意識的にこれを変えない限り令和の女性たちが自民党に投票することはないだろう。
惜しいのは立憲民主党がこのことに気がついていないという点。
寺田学議員が議員を引退する。子育てと介護を両立することができず、周囲からも「なんで男がキャリアを諦めるのか」と言われたそうだ。なぜ立憲民主党は「寺田学氏をモデルケースにして夫婦が協業できる体制を作ります」といえなかったのだろうか。おそらく立憲民主党にとってもワークライフバランスは「しょせん他人事」なのだろうと断じざるを得ない。野田佳彦氏の政治家としての壊滅的なセンスの無さが光る。
しかしながら、高市早苗新総裁が「自民党を破壊し日本を崩壊させる」のはこれが理由ではない。
男女雇用機会均等法時代・バブル時代は「時間をかければかけるほど」成果が出ていた時代である。実際にはプラザ合意でその次代は終わっていたのだが人々はそれに気が付かないまま「24時間戦い続けて」そのまま爆発した。
バブル崩壊後の日本は「高度経済成長期を支えてきた」通商条件が崩れている。日本の高度経済成長は原材料を安く輸入して一生懸命に働いてアメリカに輸出するという産業構造に支えられていたが、これが崩れてからすでに30年以上経っている。
そもそも24時間働いても収益が出ない工場が稼働するだけ。さらにそもそもこの数十年動いていないものをフルスピードで動かすとどうなるか。おそらくキイキイと音を出して壊れてしまうだろう。願わくは高市氏と周辺だけがぎくしゃくと空回りすることを期待したい。壊れるのは自民党中枢部だけで日本は救われる。意識変革ができなかった政治の巻き添えになって日本社会がぶっ壊れるのはぜひとも避けたいところ。
高市早苗氏の政策は財政出動を増やして日本の景気を良くするというアベノミクスの継続である。植田総裁が主張するようにこれまで日本の主要労働力とみなされてこなかった女性や外国人などを稼働させない限り供給制約が発生しコストプッシュ型のインフレが起きることになっている。
REUTERSとBloombergがこの両面について真逆のヘッドラインを掲げているが実はこの2つのメッセージは車の両輪になっている。
実際には財政均衡派の麻生太郎氏の陣営から人を受け入れるのだろうから「積極財政」にはならない可能性が高いが、見出しで反応する金融市場は一定の期待と不安を持つかもしれない。
将来不安を抱える子どもたちは両手を広げて「今のお菓子」を守ろうとしている。そこに24時間私生活を捨てて馬車馬のように働けと言う「第一期総合職」の総理大臣が誕生した。「子どもたち」は果たして高市早苗氏を支援するのだろうか。今後の動向に期待したい。
