頑張って総裁選関連のニュースを探しているのだが、全く見つからない。そもそも自民党の総裁が今後の政府の方針を決めることができないからだ。そんな中で「トランプ大統領と英語で話せる?」という質問を見つけた。実にくだらないが、日本人が持っている国際感覚の限界を示すうえでは良い材料なのかもしれない。
この記事を書き終えたあとで知ったのだが、これは自民党の討論会で質問の主はひろゆき氏だったそうだ。
共同通信が小ネタの一つとして米トランプ氏と英語で話せる? 自民総裁選候補、対応二分という記事を出している。外務大臣経験者の林・茂木氏は対応できたが残りの候補者は日本語だったという内容。
日本人は外国の「訛」がある人を差別する。このことから「自分たちもネイティブ並みに英語が話せなけばバカにされる」と考えてしまう。そもそも「ネイティブ」はアメリカにもともと住んでいるネイティブ・アメリカンを指す言葉だが、日本人は第一言語が英語である人を「ネイティブ」と呼ぶ。アメリカ英語が標準英語でアメリカ合衆国の歴史的公用語だという思い込みがあるからだ。
日本人の国際感覚のなさを示すくだらない質問だが「英語のうまさ」はおそらく外交にそれほど大きな影響力を与えないだろう。
トランプ大統領はリベリア代表の英語が上手なことに驚いた。地域にはフランス語圏が多く、英語も「イギリス英語」がスタンダードになっているが、リベリアはアメリカの解放奴隷が作った国なのでリーダーたちはアメリカ英語を話す。代表団は「リベリアの英語がトランプ大統領の英語に似ていた」ので驚いたのだろうと大人の対応をしていた。いずれにせよリベリアの大統領が「ネイティブ」の英語を話せたからといってアメリカ合衆国との対応で有利になるとは限らない。そもそもトランプ大統領はリベリアを知らずリーダーの名前も覚えていなかった。
トランプ大統領対応が優先順位であるならば次のような序列がつけられる。
- Top Tire:英語での交渉経験がある人たち(林芳正氏と茂木敏充氏)
- Middle Tire:高市早苗氏
- Bottom Tire:小泉進次郎氏と小林鷹之氏
メローニ首相はトランプ大統領「転がし」が上手だとされている。女性ならではの立ち回りの連想から高市早苗氏には一定の期待があるようだ。メローニ首相ももともと「極右」だったが徐々に穏健化し一定のバランスを取っている。
一方でオバマ大統領やトルドー首相のような爽やかなイケメンはトランプ大統領が最も嫌う相手。日頃の言動を見ていると自ずと人を引き付ける爽やかさに反発心を持っているのではないかと感じる。
トランプ大統領が自己アピールをやめられないのはコンプレックスの裏返しかもしれないが、オバマ大統領は爽やかな言動で「あの」ノーベル平和賞まで獲得している。その意味ではそもそも中身のなさそうな小泉進次郎氏はトランプ大統領が最も嫌う相手と言って良いだろう。
しかしながら、そもそも「英語力やルックス」は国際政治においてはそれほど意味がないのではないかと思う。
別のエントリーでガザ問題について触れた。国連は第二次世界大戦で確定した主権国家体制の維持を目的にしている。日本国憲法は国連憲章を基礎にして作られているが現実的には機能していないので日米同盟で補完しているというギャップが有るためその根底にある国連体制の崩壊やひび割れは国の根幹を揺るがす大きな事件といえるだろう。
トランプ大統領はこの文脈を理解しておらず「ラスベガスの土地開発」のメタファーでガザ問題を理解しガザの信託統治計画を掲げているが、ヨーロッパにとって国連体制の維持は死活問題だ。背景にあるのがロシアのウクライナ侵攻である。
ロシアは明らかに力による現状変更を試みている。ポーランド領空侵犯を皮切りに、ルーマニアにドローンの越境があり、エストニア領空も侵犯された。最新の事例はデンマークの空港の正体不明のドローンの来襲だった。デンマーク当局は証拠がないため名指しこそはしなかったがロシアの関与を疑っている。
つまり日本でも国連体制を維持するために声を上げるか日米同盟を優先するかという議論が起きても不思議ではないが、そもそもこれは総裁選の議題になっていない。
国家像や骨太の国家観を求める「いわゆる保守」と呼ばれる人たちが反応しないのは極めて不思議だが、そもそも日本人は今与えられた環境でどう立ち回るのが賢いのかということしか考えられないのだろう。コンセプトベースの議論はそもそも無理と考えたほうが良いと考えると彼らが言う「骨太の国家観」は話半分で聞いておいたほうが良さそうだ。
中学校と高校で無駄な6年間を過ごしても英語コンプレックスから脱却できない日本人は「ネイティブくらい英語が話せれば堂々と国際世論と渡り合えるのに……」くらいの国際感覚しか持ち合わせていないのである。
