日本記者クラブで総裁選候補者の討論会が行われた。各陣営とも失言による失点がないように万全な準備をしており面白みにかける討論会だった。「圧迫面接家」の橋本五郎氏も手応えのなさを感じていたようだ。
ただ、見ているうちに「単に安全運転だから盛り上がらないわけではないんだな」と感じた。理由を3つ挙げたい。
目標ではなく実現するかもよくわからない前提を掲げているだけ
給料100万円アップの正体が徐々にわかってきた。林芳正氏と小泉進次郎氏が小野寺政調会長の主張をベースにそれぞれ同じような議論を展開している。林芳正氏は実質賃金の1%アップを提唱しているだけだが、小泉進次郎氏はわかりやすい額にこだわったのだろう。ただこれを実施するためには年率4%の上昇が必要になるそうだ。「目標はわかったけど具体的にどうするんですか?」という議論が飛び交っている。
林芳正氏の注目ポイントは日銀の物価上昇目標との整合性だった。仮に日銀の目標と小泉氏の目標が食い違えば攻撃ポイントになると考えたのかもしれない。だが小泉進次郎氏はおそらくこの質問の意味がよくわかっていなかったのだと思う。
両者の話を聞いているうちに「ああこれは目標じゃなく前提なんだな」と感じた。実質賃金が上がるとという目標を立てなければ今後の自民党政治の正統性が保てない。だがどうすればそうなるかという具体策は実はふたりとも持っていないのである。
節目節目で総括してこなかったツケ
さらに節目節目で総括してこなかったために、各候補とも積み重なった矛盾を一気に解決することを迫られている。就職氷河期世代の格差、賃金労働者が減っているため賃金アップが実現できたとしても経済全体の底上げに繋がらない点など、問題は多岐にわたる。
このため記者たちが「一体何が根本原因なのか?」と聞いても明確な回答はない。唯一小林鷹之氏だけが「人材であろう」と主張していた。
TBSの夕方のニュースでは井上貴博キャスターがゲストコメンテータに「何を変えれば」と質問していた。当然コメンテータは何も答えられない。総理候補だけでなくだれも30年積み重なった問題を一夜で解決する答えは持っていないだろう。
そもそも自民党の中がまとめられない
高市早苗氏の消費税に関する主張の変遷の理由も明らかになった。消費税減税を訴えたが通りませんでしたと言っている。宮沢洋一氏をトップにいただく自民党税調が説得できなかったのかもしれない。一方で小泉進次郎氏も「自分が選択的夫婦別姓を言い出したが党内意見も野党の意見もまとめられなかった」と言っている。
ただし今回は「総裁になったらどうするのか」というのが質問内容。つまり自分ごときで党内がまとめられるはずはありませんよねと釈明している。
なぜこうなったのかは類推するしかない。だが小泉純一郎総理や安倍晋三総理の事例を参考にするとわかりやすい。党内の反対意見があっても「民意に支持されている」という理由で乗り切ってきた。
いわゆる保守と呼ばれる人たちを観測していると「自分の意見は言えないが勝ち馬に乗って騒ぎたい」人が増えているようにみえる。そもそも少数与党であるという現実は変わらないので勝ち馬になれるリーダーが出てこない。
結果的に党内がまとめられなくなる。
結果的に「まとまっていないものがまとまっているように見せる」ための表紙選びになりそうだ。小泉進次郎氏はパレスチナについて聞かれ「総理になったら外務省のブリーフィングを受ける」と釈明していた。この人の場合総理大臣になってから行き詰るか総裁選で行き詰まるかのタイミングの問題と言う気がする。
自民党だけで決められない
討論会ではトランプ大統領の話題が出ていたが「真摯に向き合う」程度の答えしか出てこなかった。これまで歴代のアメリカの政権は日米関係は盤石であるとの印象を与えてきた。このため自民党は「アメリカ合衆国とうまくやっています」と宣伝するだけで良かった。ところがトランプ大統領の台頭でこの戦略が崩れ、いくら日本政府が「自主的な決定」を主張しようがそれは単なる虚偽であると白日のもとにさらされてしまった。
日米同盟の正体が誰の目にも明らかになったのは良いことなのだろうが、いかんせんその後にどうすべきかというアイディアが出てこないため「日本の将来を日本人が決められない」という現実だけが残る。
さらに各候補ともキーになる政策について「野党のあることですので」と慎重な答弁に留まっていた。各候補ともすぐに解散を行わないと明言しているのでしばらくは少数与党状態が続く。自民党の内部さえまとめることができないリーダーが野党と何を約束するのかは不明だが、とにかく自民党内部では国内問題さえ何一つ決めることができないのだ。
