トランプ大統領が歴史的なアナウンスを行うとホワイトハウスの報道官が発表した。この「歴史的な」はフラグになっている。今回はタイレノールなどのアセトアミノフェン系鎮痛薬が自閉症と関係があるという内容になりそうなのだという。科学的に統一された見解がない。
タイレノールが発売されたのは1955年。アスピリンを配合しない少年向けの鎮痛剤だったが、その後1959年には処方箋なしで買えるようになった。日本で発売されたのは比較的最近なので馴染みがないがアメリカではよく知られている。トランプ大統領が「あの」タイレノールと飛びつきたくなる気持はよく分かる。
今回の報道はワシントンポストを引用する形で出ている。これを受けたBloombergは「確かにそういう研究発表もあるが否定する発表も出ている」と書いている。
常識的に考えるとタイレノールと自閉症の関係はそれほど強くないのではないかという気がする。そもそも自閉症が「増えた」のは診断分類が変わりなおかつ症状が認知されたことで相談件数が増えたことが背景にあるようだ。さらに「増えた」のは2000年代に入ってからである。つまり医学的にタイレノールと自閉症が関係しているならば、なぜ発売から50年経って症状が出始めたのかを説明しなければならない。
にも関わらずトランプ大統領がこれを歴史的な発表と位置づけるのはなぜだろう。
第一にトランプ大統領の周りには科学論文がまともに読めない人々が群がっているのだろう。
第二にトランプ大統領はラスベガスのホテル王さながらに常に歴史的な発表を必要としている。トランプブランドを維持するためには毎週のように偉大な発表が必要だ。
アメリカの公衆衛生はケネディ保健福祉省長官のもとですでに大混乱している。ワクチ接種の推奨が書き換えられたことで西部諸州は独自の判断基準を示している。
その意味ではトランプ大統領の歴史的発表はアメリカの混乱にまた一つ彩りを増やすだけということになりそうだ。トランプ大統領はアメリカ合衆国という企業のブランドアンバサダー兼CEOを自認しているのだろうが、おそらく彼がやっていることはアメリカというブランドのイメージ毀損にすぎない。
