9,100人と考えAIとも議論する、変化する国際情勢とあいも変わらずの日本の行方


H-1Bビザを巡り広がる混乱

10〜15分

イイネと思ったら、Xでこの投稿をシェアしてください

アメリカの専門技能ビザであるH-1Bを巡り混乱が広がっている。この混乱を見るとトランプ大統領が製造業を中心とした産業政策をよく理解できていないことがわかる。この混乱の原因を探ってゆくと興味深いことがわかる。それがアメリカの虚業化だ。

このブログとは別に古いMacなどの技術系ブログを書いている。サウンドシステム研究の一環として週末にオーシャンズ11・オーシャンズ12・オーシャンズ13を見た。

オーシャンズ13にはラスベガスの強欲なホテル王のウィリー・バンクという悪役が出てくる。トランプ氏を思わせるような特徴がいくつもあり「トランプ氏がモデルなのではないか」なのだろうと感じた。

しかしAIに聞いてみるとトランプ氏はモデルではないそうだ。モデルは2名いるとされている。ドナルド・トランプ氏とスティーブ・ウィン氏だ。

ところがもう一人のモデルとされるスティーブ・ウィン氏は実名で登場したベラージオを手掛けている。ベラージオの経営者はオーシャンズ11に悪役のように登場するがオーシャンズ13では協力者になり「善人」に仕立て上げられてしまう。なおベラージオはこの映画のロケ地であることを観光資源として利用しているそうだ。

確証はないものの制作者側はあからさまに1名の人物を思わせる登場人物を登場させると訴訟のリスクがあると考えたのではないかと思う。そのために登場人物のキャラを混ぜてあえてわかりにくくしている。さらにその一人を巻き込んで宣伝に一役買ってやっている。制作後のプロモーションでも誰がモデルだったのかについては触れられなかったそうだ。なおバンクホテルはCGだったそうで建物さえ実在しない。

いずれにせよ当時のラスベガスの様子を見るといくつかの特徴が浮かび上がる。そしてこのラスベガスの様子は現在のホワイトハウスの状況の説明に役に立つものが多い。

  • ラスベガスの産業集積が地元の許認可によって支えられている
  • 限定的な土地に高い付加価値があり相手を追い落としてでも利権を手に入れた人が勝つ
  • 参加する人間関係が限られた狭いムラである
  • 欲望に根ざしているため集客イベントがプロレスやボクシングなどの格闘技に限定される
  • 欲望+ブランドイメージに支えられた虚業である
  • 利権を確保して投資さえ集めれば巨額の資金が回収できる極めて特殊なビジネス構造がある

トランプ大統領は「アメリカ合衆国はラスベガスのストリップのように約束された土地」であり「投資さえ集めれば」あとは自分が支えるイメージ戦略で成功すると考えている可能性がある。

そう考えると製造業のような産業育成にはあまり向いていないということがわかるだろう。製造業は育てる産業でインフラ整備と人材育成が欠かせない。つまりおそらくアメリカ合衆国はトランプ大統領のもとで製造業大国には復帰できないということになる。

さてそんなトランプ大統領のもとで専門職ビザのH-1Bを巡る状況が混乱している。当初は10万ドルという数字の大きさに驚いた。初回申請料だと思い込んでいたのだが大統領令には毎年10万ドルが必要と書かれているという。

19日に署名された大統領令では、H-1Bビザの従業員を雇用している企業に年10万ドルの手数料を課すとしていた。ラトニック商務長官は同日、手数料は毎年徴収することになると述べたが、詳細をまだ検討中と説明した。

「現実とは思えない」、専門職ビザ規制に怒りや失望 企業も苦慮(REUTERS)

そもそもこの専門職ビザはテック産業と金融産業に独占されており、製造業やその他のサービス業には枠がなかったそうだ。ラトニック商務長官が「詳細は検討中である」と述べているように、そもそも制度設計をする前に発表してしまった。

結果テック企業と金融産業は大混乱に陥りインド人や中国人が渡航先から呼び戻されている。入国の条件として10万ドルを徴収されるようなことになっては困るというのが理由だったそうだ。

これに慌てたホワイトハウスはXの投稿で次のように発表した。大統領令は法律的な文書だがXの投稿はそうではない。

翌20日、ホワイトハウスのレビット報道官はXへの投稿で、 10万ドルの手数料は、新規の申請を対象とした1回限りの手数料で、既存のビザ、ビザの更新には適用されないと説明した。

「現実とは思えない」、専門職ビザ規制に怒りや失望 企業も苦慮(REUTERS)

話をまとめると次のようになる。

そもそもアメリカの産業構造はハイテクと金融に傾いておりこれが格差を拡大させている。人材はハイテクと金融が抑えてしまい、製造業やその他サービス業には降りてこない。おそらく資金にも同じような傾向があるのではないかと思う。加えて、トランプ大統領は不動産の中でも特に虚業度の強いリゾート系の出身だ。

このことから自ずと製造業のような実業に有利な落ち着いた産業構造は作りにくいものと考えることができるだろう。

今回のH-1Bビザ発表の目的は非常にトランプ大統領らしいものといえる。イベント的に人気を集めることによってブランドに対する期待を高め更に集客を目指すというもの。このようにトランプ大統領の統治中にはますますアメリカ合衆国の虚業化が進むということになる。

なおアメリカ合衆国といえばテレビや映画などのソフトパワーが有名だ。しかしAI(GEMINI)に聞いたところ、実はアメリカ合衆国の映画産業規模はカジノの1/10程度なのだそうだ。ストリーミング系をいれるともう少し規模が大きくなるそうだが、人々の「儲けたい」という欲望を直接刺激するほうが手っ取り早くお金を集めることができるということがわかる。

“H-1Bビザを巡り広がる混乱” への2件のフィードバック

  1. 細長の野望のアバター
    細長の野望

    トランプ大統領を支持した人の中には、製造業やカトリック系の人がいますが(割合はわかりませんが)、トランプの経歴や発言から判断しても、彼らの意見を取り入れるような人物だと感じるのが不思議です。例えば、製造業の苦労を知らない金融関係の経歴を持つコンサルタントがやってきて、製造業を再び取り戻しますよと言っても、普通は訝しむとおもいます。彼の言葉に対して真に受けているのか、それとも彼のような人物なら、おだてていれば自分たちの要望が受け入れられるかもしれないと思っているのか・・・。

    1. 普通の状態ではないのではないかとは思いますが、ここは要経過観察ですね。少なくともアメリカ全体を巻き込んだ狂乱にはなっていないというのは救いのような気がします。