チャーリー・カーク事件の余波が続いている。トランプ大統領の同盟者として知られるテッド・クルーズ氏までがFCCの一連の行動をギャングに例えている。共和党にとっても表現の自由は譲れない価値観のようだ。
しかしトランプ大統領がこれに応じる兆しはない。どうやら連邦政府を株式が公開されていない私企業のように考えているようだ。
そんな中である連邦検事が退任した。普通の民主主義国では汚職や不正で解任されるがアメリカ合衆国では不正に加担しなかったことで解任されている。そしてトランプ大統領はこれを隠すどころか「自分が解任した!」と主張している。一連の行動に全く悪気がない事がわかる。
バージニア東地区を担当するエリック・シーバート検事が退任した。トランプ大統領は退任ではなく解任だ!とSNSで主張したそうだ。
ABCニュースによると、シーバート連邦検事はニューヨーク司法長官のレイテシア・ジェームズ氏を告発する役割を期待されていた。不動産取引を巡る不正があったというのだ。ところがシーバート検事は不正を見つけることができなかった。これに腹を立てて「もっと積極的な人物を登用する」として解任を決めたようである。
表向きの理由は「民主党が賛成した人物だから」ということになっている。
トランプ氏は自身のSNS「トゥルース・ソーシャル」に、「本日、エリック・シーバート氏のバージニア州東部地区連邦検事への任命を取り下げた。偉大なバージニア州選出の、全くひどい、卑劣な民主党上院議員2人から、異例のほど強い支持を得ているとの報告を受けたためだ」「彼は辞任したのではない。私がクビにしたのだ!」と投稿した。
トランプ氏の政敵2人を起訴せよと圧力、屈さなかった連邦検事が「クビ」に(AFP)
トランプ大統領は政敵潰しのために司法を利用することをそもそも悪いこととは思っておらず、むしろ積極的に宣伝する傾向にある。シーバート氏は自発的に辞めたと主張しているがトランプ大統領はそれを遮る形で「自分が辞めさせた」と言っている。
トランプ大統領にとって国家運営は株式公開されていない私企業のようなもの。つまりオーナーが好きに経営して構わない。この考え方はマスコミにも向けられる。テレビの政権批判は個人攻撃であり法律違反なのだという。
もはや何を言っているのかさっぱりわからないがおそらく法律も立法府ではなく行政府で作れると考えているのだろう。大統領令を王様のおふれのように乱発していることからもそれはうかがえる。
今年複数の主要メディアに訴訟を起こしているトランプ氏はホワイトハウスで記者団に対し、「素晴らしい話を悪く見せる。個人的には本当に違法だと思う」と述べた。
トランプ氏、自身に対するネガティブ報道は「違法」と主張(AFP)
トランプ氏は米国のテレビネットワークに批判の矛先を向け、「自分と政権に対する報道の97%が否定的だ」と繰り返した。
これを見かねたMAGA同盟者のテッド・クルーズ上院議員もついに黙っていることができなくなった。ジミー・キンメル・ライブの放送停止については肯定しつつも共和党支持者たちが離れてゆくことを懸念しているようだ。FCCのカー委員長の一連の言動をマフィアに喩えて批判している。
そんな中、議会でも混乱が置きている。アメリカ合衆国では会期末の予算切れ騒ぎは毎年恒例のことになっている。議員たちは自分たちは最後まで支持者のために戦ったと主張するために最後の最後まで予算を人質に立てこもるようになっている。今年も秋の恒例行事として連邦政府閉鎖まつりが始まった。下院は10月7日まで開かれない。つまり予算修正には応じない考え。一方で上院もギリギリまで休会する。誰かが妥協してくれるのを待っているのだ。
その後、上院は9月29日までの休会に入った。下院も10月7日まで休会する予定。
トランプ大統領、10月1日の米政府閉鎖は「十分あり得る」と予想(Bloomberg)
金融市場は「ああまたか」「株価に影響が出なければそれでいいや」という反応のようだ。
金融市場は通常、政府閉鎖の脅しをワシントンで飛び交う過激なレトリックに過ぎないと受け流す傾向にある。過去の対立が土壇場で解消されてきたからだ。しかし今回は双方の姿勢がより強硬であり、閉鎖はこれまで以上に現実味を帯び、解決も難しそうに見える。
トランプ大統領、10月1日の米政府閉鎖は「十分あり得る」と予想(Bloomberg)
しかし冷静に考えれば連邦政府が止まると支援が打ち切られる人や仕事を失う人が大勢出てくる。もはやアメリカの政治家たちは自分たちがなにのために働いているのかという目的意識を完全に失っているようだ。
