小泉進次郎氏が平均賃金の100万円上昇を訴えた。見出しになるキャッチーなテーマだったが具体策に乏しく今後戸惑いの声が広がるだろう。もともとは石破政権んの政策だが実現しなかった。だからこそ有権者は自民党にNOを突きつけたのだ。
ただし小泉進次郎氏はそもそも中身がない爽やかさがウリのリーダーだ。中身が空っぽであればあるほど存在感が増す。ただ、なぜ周りの重鎮たちが脇を固める援護策を講じなかったのかは気になる。長老たちは自民党の危機を他人事と感じているのかもしれない。
まず内容を確認しよう。実はこの100万円構想は石破政権時代に小野寺政調会長がまとめたものを踏襲している。
また、実質1%、名目3%の賃金上昇率を達成し、2030年度におよそ100万円の賃金増加を目指すとしています。
自民 “2030年度に約100万円の賃金増加を目指す”(NHK)
ところが実際には物価高の上昇が3%を超えているので3%名目賃金が上がっても実質賃金はマイナスになる。そしてこれが石破政権が参議院選挙で負けた原因になっている。8月は久々に下回ったのだがこれは政府の支援策のおかげだった。
政府支援策で電気・都市ガス代の下落幅が前月から拡大し、エネルギー全体では3.3%下落と昨年1月以来の大幅な落ち込みとなった。生鮮食品を除く食料は8.0%上昇と前月の8.3%上昇を下回った。伸び縮小は2024年7月以来。このうちコメ類は69.7%上昇と3カ月連続でプラス幅が縮小した。
消費者物価は伸び鈍化も日銀目標2%超え続く、年内利上げ観測の支え(Bloomberg)
特に激しく値上がりしているのが生鮮食料品を除く食品だ。8%増加している。もちろんハイパーインフレとまではいかないのだが有権者が与党を批判する動機になる数字である。最近生活が苦しくなったと考えている人がいればその感覚は間違いではない。
これまで政権与党はさまざまな約束をしてきたがどれも達成できていない。このため有権者はそもそも政府を信頼しなくなっており「もう余裕がないから税金は払いたくない」と言い出している。仮に政府が信頼されていれば「税金は払いますからもっと良くしてください」と言っているはずだ。
この100万円アップ構想について記者たちからは質問が出なかったようだ。質疑応答が記事になっていない。おそらくマスコミも自分たちが生活者であるという感覚を持っていないのだろう。所詮は他人事なのである。
次に国内投資についても具体策は出なかったようだ。2030年までに135兆円が必要になるという。石破総理は事実上拒否権がない対米投資を80兆円約束しているが「どこから資金を掻き集めてくるんだろうか?」と実現が疑問視されている。
かねてより高齢者に偏った貯蓄が多すぎて投資に回らないと問題視されていた。これをなんとかしようとして始まったのがNISAと新NISAだったが海外投資を加速するだけに終わっている。記事は少し古くて2024年6月のもの。
5カ月間の累計の商品別の内訳を見ると、新NISAによる個人の海外投資を映す「株式・投資ファンド持ち分」が5兆1634億円の買い越しで全体の9割を占める。「短期債」と「中長期債」の買越額はそれぞれ1210億円、3545億円にとどまる。
家計の円売り、はや前年上回る 新NISAで1〜5月5.6兆円(日経新聞)
国民は政府の投資など期待しておらず自分たちの身を守るために新NISAに投資する。NISA貧乏という言葉もある。生活を切り詰めて海外資産に投資している人までいる。加えて政府主導で80兆円を差し出す計画もある。加えて135兆円をどこから捻出するのだろうか。
ただこれも目立った反論記事は出ていない。
もともと小泉進次郎氏に中身などなく「爽やかな表紙」としての役割が期待されている。つまり小泉進次郎氏が経済・金融政策を組み立てられなくても仕方がない。小泉進次郎氏に必要なのは爽やかなルックスを維持し意味ありげな名言を量産することだけである。
ただ自民党の長老たちの危機意識のなさは気になる。仮に解党的出直しが必要という危機感を持っていれば、官僚や有能な国会議員をつけて徹底的に理論武装させていたはずである。
菅義偉氏に有能なブレーンがいればおそらく総理大臣を短期で辞めずに済んだはずなので菅義偉氏の尽力は期待できなかった。
しかし麻生太郎氏は財務省に強いパイプがあるはずだ。そんな麻生氏は「自分は火中の栗は拾わない」と主張している。苦し紛れに「これは麻生氏なりのエールだ」などとうそぶいている政治評論家もいるが、おそらくは「自分は遠くから論戦を眺めて形成が決まったところで勝ち馬に乗りますよ」と言っているのだろう。
麻生氏は小泉氏と約30分会談。関係者によると「俺だったらお前の年齢(44歳)で『火中の栗』は拾わない」と笑顔で応じた。麻生氏は小泉氏を「前よりはよくなっている」と評価しつつも、支持する考えは示していないという。
麻生・岸田氏「勝ち馬」見極め 有力候補が相次ぎ面会―自民総裁選(時事通信)
自民党総裁選挙には官僚出身や財政状況がわかっている候補者も出馬しているが、彼らもまた抜本的で具体的な経済改善策を出していない。おそらく中には日本はリブートできないと考えている候補者も多いのではないかと思う。
高市早苗氏は財務省に対して日本の再建策を提示するように上から目線で注文を出しており、小泉進次郎氏はそもそもスタートラインにすら立てなかった。
再建策がないとわかっていて触れない人、政策立案能力がない人、当事者意識がなくお手並み拝見と考えている人、という構成でしばらく「自民党総裁選まつり」が続くことになる。我々は一体何を見せられているのだろう。
