高市早苗氏が出馬会見を開いた。今回の総裁選挙の特徴がわかってきた。前回の総裁選挙は刷新感を演出するために「自民党には多様な意見がある」と示す古目的があったが、今回の総裁選挙はこの多様性を封印する傾向がある。高市氏の場合はこれが特に顕著だった。こうなると林芳正氏が提唱した中選挙区制への回帰の動きが益々強まるだろうと感じる。
高市早苗氏の政策説明を読んでみたが何が言いたいのかよくわからない内容だった。
政治的ブランドを守るために「保守」とは言っているが「総理大臣になった場合」の靖国参拝については明言しなかった。あからさまな高市推しの産経新聞は裾野を広げるために却って保守層を落胆させる可能性があるとしている。
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そもそもいわゆる保守がどの程度残っているのかもよくわからない。あるいは今回の党員票は「党内の保守層の点呼」になるかもしれないとさえ感じる。保守票を失い落選した和田政宗氏は参政党と協定を結び宮城県知事選挙に挑戦するそうだ。村井知事と宮城県側は事実誤認としているが非当事者色の強い「保守」はおそらく内容を読んでいないことだろう。
市場は高市氏の財政拡大路線を期待していたようだが、有権者の関心が高い消費税減税には「即効性がない」として踏み込まなかった。戦略的曖昧さを貫く麻生太郎氏の支持を得るために忖度したものと考えられる。
また、宏池会と違って自分たちで経済・財政政策をまとめられないのだろう。財務省が提案をして持ってくるべきだと丸投げしていた。
「私は財政健全化を一度も否定したことはないが、大切なのは経済成長だ。財政健全化そのものは目的ではない」。記者会見で高市氏はこう強調した。財務省を名指しし「これをやったら成長するというマスタープランを示してほしい。財務省には本気を出してほしい」と注文を付ける場面もあった。
マクロスコープ:自民総裁選、高市氏に立ちはだかる二つのハードル(REUTERS)
一方で、野党との連携を強調するために各党の提案のうち飲みやすそうなものを散りばめていた。
林芳正氏の林プランは宏池会の伝統を受け継ぐ総花的内容だったが、高市早苗氏は別の意味で総花的でまとまりがない内容になっている。
どうしてこんな事になってしまうのか。次第に原因が見えてきた。そもそも日本人は政策には興味がない。リーダーを選ぶに当たって重要なのは誰を応援するとトクになり誰を応援するとソンになるかという分配型損得勘定だ。
自分の損得については真剣に考える。しかし分配構造から排除されてしまうと極めて冷笑的になり中身に興味を持たなくなる。冷笑的になった人々を分配構造の中に引き戻すことは難しいので誰が勝ち馬なのかが読めなくなる。誰が勝ち馬なのかが読めなくなるとあらかじめ強い表紙を選ぶことができなくなる。
このためどの候補者も党内のさまざまな人の顔色を伺いながら誰の損にもならない慎重なメッセージングが求められるようになり、結果的に色がなくなってしまうのだ。
これを防ぐための第一の方法は大政翼賛会を作って外に敵を作るというやり方。ところが日本はこのやり方でかなり痛いにあっている。
もう一つのやり方はさまざまな実弾を飛ばし合いながら水面下でコンペを行い、勢力が決まった時点で政策談合を行うというやり方である。有権者たちは実弾を示されてはじめて中身に興味を持つ。
こうした政治的土壌ではあらかじめリーダーを決めることなど原理的にできないので、まず中選挙区で競わせてリーダーを選ぶべきということになるだろう。
そもそも自己主張に消極的で他人の足を引っ張り合う傾向が強く、自分の損得に関係がある事象とそうでない事象を明確に分離する傾向がある日本人には政策ベースの小選挙区など身の丈に合わない無理な願望だった。林芳正氏が主張する中選挙区復活こそが日本人の性根に合致した方式なのかもしれない。
