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アメリカで始まった放送局に対する言論統制

10〜15分

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日本では芸能人が政治的な問題について語るのはタブーだが、アメリカでは許されている。アメリカ合衆国の民主主義の成熟ぶりを語るうえでよく引き合いに出されるフレーズだ。

しかしこれはもう過去のものになってしまった。ディズニーの子会社であるABCがジミー・キンメル・ライブをキャンセルにした。電波行政を司るFCCの恫喝があったものと理解されている。

また、トランプ大統領はアンティファをテロ組織にすると息巻いており政府と支持者達による言論統制が始まっている。SNSでの自由な発言が憚られる雰囲気があり共産党が支配する中国と似てきたという印象がある。

きっかけはチャーリー・カーク事件だった。トランプ大統領はこの問題を過激左派のアメリカ社会に対する攻撃と位置付けた。

そんな中、2003年から深夜ショーの司会を担当しているジミー・キンメル氏がこんな発言をした。

キメル氏は15日の放送で、「MAGA(アメリカを再び偉大にしよう)の連中は必死になって、チャーリー・カークを殺した子供が、自分たちとは全く違うと見せかけようとしているし、この事件から何としても政治的な得点を稼ごうとできる限りのことをしている」と発言した。

米ABC、人気の深夜トークショーを放送中止に カーク氏殺害事件めぐり(BBC)

この発言は厳密にはタイラー・ロビンソン氏はMAGAであるとは言っていない。しかしFCCはこの発言を問題視しジミー・キンメル氏が虚偽の主張を行っているとした。

ABCは大統領選挙前のインタビューにおいて民主党陣営に有利な放送を行ったという言いがかりをつけられており23億円で和解している。

今回はABCのネットワーク局のうち合併(政権の認可が必要)を控えたある放送局がキャンセルを訴え、さらにFCCの恫喝が加わったことにより、ABCが「自主的に」判断したことになっている。つまり放送局が経済的に判断してショーをキャンセルしたという建前になっている。

当然ハリウッド(芸能界)はこの連邦政府の恫喝に色めき立っており、オバマ元大統領も政府の不当な介入を非難している。元大統領という特別な立場にあり普段はトランプ大統領批判を控える傾向にある。

「キャンセルカルチャーについて何年にもわたって不満を表明してきた現政権が、新たな危険な段階に踏み込んだ。メディア企業に対して、気に入らない記者やコメンテーターを黙らせたり解雇したりしなければ規制措置を取ると常態的に脅している」とオバマ氏は批判した。

米トーク番組打ち切り、「権力乱用」と民主党が非難-オバマ氏も言及(Bloomberg)

アメリカ合衆国憲法は表現の自由を極めて重要な権利に位置づけているが、トランプ大統領はSNSでABCの「自主的な」判断を絶賛している。

ABCがキメル氏の番組の放送中止を発表すると、トランプ大統領はその直後、「アメリカにとって素晴らしいニュースだ」とソーシャルメディアに投稿。「視聴率に苦しむ『ジミー・キメル・ショー』がキャンセルされた。ABCが必要なことをする勇気をついに持てた。おめでとう」と書いた。

米ABC、人気の深夜トークショーを放送中止に カーク氏殺害事件めぐり(BBC)

この自主的な番組終了はCBSのザ・レイト・ショーに続く2番目のメジャー番組のキャンセルとなった。BloombergによるとCBSはこの後で大型合併提案の認可を受けているそうだ。

ここまでの経緯を見ると、トランプ大統領が中間選挙対策として合理的に民主党に有利な言論状況を変えようとしているのだと理解したくなる。しかしどうもそうではないようだ。

トランプ大統領はアンティファをテロ組織に指定したと発表した。しかしアンティファには中核となる組織はない。トランプ政権が認定した思想はアンティファ的ということになり粛清の対象になるということを意味する。メディアは曖昧なテロ組織指定を不安視している。

アメリカ合衆国のジャーナリズムは健全な政権批判で知られる。

しかしトランプ大統領にとってはメディアの批判は個人攻撃行為である。

チャーリー・カーク事件について質問したABCの記者に対して過去の和解問題を引き合いに出し「今後はお前のような記者を追求してやる(to go after)」と挑戦状を叩きつけている。この発言はトランプ大統領を取り囲むカメラの前で行われており、トランプ大統領が権力者としてメディアを潰すという発言に何ら戸惑いを持っていない事がわかる。

本来であればこうした発言は自由を尊ぶアメリカ人から大いに批判されて叱るべきだ。しかしながら実際には一部の相対的剥奪感を持った人たちから大いに支持されている。実際にチャーリー・カーク事件のSNS投稿が原因で職場を追われる人たちも出てきた。もともと競争が激しい社会でライバルを蹴落したいという人は多勝ったはずだ。

中国では抗日映画ブームが起きている。若者の間に失業が広がっておりこれが共産党批判に繋がりかねないという事情もあるのだろう。事実とは必ずしも一致しないが「中国共産党が中国を日本から解放した」という宣伝が行われており抗日映画もその一つの道具になっている。このため、日本政府はしばらくは目立った行動は控えるようにと日本人に呼びかけている。

本来なら「民主主義を守るためには表現の自由が大切である」と主張したいところだが、アメリカに住んでいるかアメリカと仕事をしているような人はしばらくSNSでの発言に気をつけたほうがいいかもしれない。トランプ政権は一部ビザの認可にSNSの記述を参考にするとしている。