時事通信が「物価高対策、減税論が7割超 給付派は15%―時事世論調査」という記事を出している。足元でインフレが加速する中で民意は減税に傾きつつあるようだ。
土日に近所の小学生たちが野球をしている。2つのチームに別れて自分のチームを応援し、相手のチームに野次を飛ばす。テレビでは世界陸上が開催されており「日本人たちの」活躍に声援を送っている。そう考えると日本人はなにか大きなものの一部でいることに心地の良さを感じ群れから外れると不安になってしまうのかもしれない。
自民党の総裁選挙が始まり高市早苗氏が出馬表明した。政策については後日発表するそうだが給付付き税額控除やブラケットクリープ対策などが盛り込まれることになるようだ。国民民主党の政策に近く連携が念頭にあるのかもしれない。
高市早苗氏は金融緩和や積極財政でどのようなコメントを出すかに注目が集まっている。
高市氏は金融緩和や積極財政を主張しており、総裁選でどのような政策を掲げるか市場でも注目されている。昨年9月の総裁選期間中に出演したインターネット番組で「金利を今、上げるのはあほやと思う」と発言。今年5月には別の番組で、食料品への消費税率(8%)を0%に引き下げるべきだとの考えを示していた。
高市氏が自民総裁選へ出馬表明、あす政策発表-金融・財政政策に注目(Bloomberg)
石破総理、野田佳彦代表、斉藤鉄夫代表は19日に会談を行い給付付き税額控除について話し合うことにしている。
一方で林芳正氏はガソリン減税は肯定したが一律2万円の給付には懐疑的。岸田総理の政策の踏襲を打ち出した。厳密に言えば岸田総理の政策は宏池会の政策なのでこの枠から抜けられなかったことになる。林プランの内容を見てみたがマスコミの見出しにしにくい総花的な内容。自民党が解党的危機にあるという認識に乏しい。現在の小選挙区制では政党間の協力体制が得にくいことを念頭に中選挙区制への復帰を目指している。
ただ冷静になって考えてみるとそもそも自民党は解党的危機にあるのかという気もする。
翻って安倍総理がなぜ長期政権を維持できたのかを考えてみよう。民主党政権時代に「日本人はこのままではダメなのだ」「一人ひとりがもっと努力しなければならない」というメッセージが喧伝された。多くの日本人はこれに耐えられなかった。そこで安倍総理は「日本人がダメなのではない」「日本人を貶めた民主党が悪夢だったのだ」と置き換えた。外に敵を置くことで、仮初ではあるが、チームとしての一体性が演出された。
その後安倍総理が行ったのはほぼすべてが問題の先送りだった。消費税増税も行っているが「みんなの将来のためにお金を使ってあげます」と国民を説得している。
結果的に教育無償化政策が実施されたが、実際のところ国の競争力は戻らず、少子高齢化もますますひどくなり、有権者はさらなる減税を求めている。しかしながら安倍総理の掲げた教育無償化を否定する人はいない。
このように冷静に考えてみると、有権者たちは一つのチームに所属して相手を罵っているときだけ一体感を感じることができるが、眼の前で起きていることそのものにはさほど関心がないという結論が得られる。また政策の結果自分たちが貧しくなろうが仮初の一体感さえ得られればさほど気にしない。
そもそも日本人は政策に興味がないのだと考えると、政策コンペを促進する小選挙区制には意味がないのかもしれない。
そう考えると減税要求も単に「自分たちのチームではないものにお金は出せない」と考えているだけであって、特に減税か給付かには興味がないのではないかという結論が得られる。
そのように考えると今のところ日本人がワンチームであると説得できそうなリーダーは自民党にはいないことになる。そもそも日本人は「勝っているチーム」が好きなので解党的出直しを模索する「負けているチーム」を応援したいとは考えないだろう。
現在は明確な勝者がいない状態なので、有権者はどのチームにも乗りたがらない。故にターゲットを絞った減税や給付付き税額控除などの政策に支持は集まらず、引き続き、政治に対する冷笑的な態度と減税要求だけが打ち出されることになるのかもしれない。
と考えると政党政治の出口は一つということになる。議会が大同団結し外に敵を設定し勝ち続けるというもの。日本の議会は一度この状況を経験している。それが大政翼賛会だった。
