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コックス・ユタ州知事いわく「SNSはガン」だ

11〜16分

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チャーリー・カーク事件でユタ州知事がSNSはガンだと表明した。SNSを敵視しても仕方ないように思えるのだがこの発言は概ね好評。一方でMAGAの間では主戦論が飛び交っており今後事態がますます悪化する可能性がある。アメリカ合衆国で何が起きているのか、これは日本にも波及するのかについて考えてみた。

トランプ大統領に近い保守活動家のチャーリー・カーク氏が殺された。タイラー・ロビンソン容疑者が銃弾に様々な刻印をしていたことから政治的メッセージが込められていたのではないかと見る人が多い。しかし、その内容が政治的に見て右なのか左なのかがよくわからない。

最初に問題に火をつけたのはトランプ大統領だった。急進左派の仕業であると主張し民主党攻撃に利用しようとしている。中間選挙が念頭にあるものと見られる。一方で加熱しがちなMAGAを抑えるために暴力は抑止するようにと呼びかけてもいる。MAGAの中には自分たちは戦争状態にあると考える人が増えているようだ。

スペンサー・コックス・ユタ州知事は今回の暴力はアメリカ人全てに向けられているとしたうえで次のようにコメントしている。コックスはSNSをガンだと記述しSNSを見ている人々に対してスマホやPCから離れて草を触り家族をハグし外に出かけてコミュニティに対して良いことをすべきだと訴えている。

Cox described social media as “a cancer,” and urged those watching to “log off, turn off, touch grass, hug a family member, go out and do good in your community.”

Utah Gov. Spencer Cox’s message to ‘disagree better’ faces its biggest test(CNN)

コックス知事の発言が好意的に捉えられるのは、分断を煽るトランプ大統領と対比されているからだ。

しかし、そもそもSNSはガンなのか。

トランプ大統領は今回の出来事は急進左派の仕業だと言っている。一方でMAGAの中にも分断があるのだから右派の内部分裂かもしれないと指摘するメディアもある。

ところがミーム研究家は全く異なった見解を持っている。

LA Timesにこんな記述がある。社会的に孤立しネットの過激な言動にさらされた若者の動機を探るのは年々難しくなりつつあるそうだ。彼らが右派・左派という政治的コンテクストを理解しているとは限らず、ネット上で目立つために言動を先鋭化させ独自のコンテクストが形成される。これを既存の政治的文脈に戻しても何ら意味のある結果は得られないだろう。

“It is increasingly difficult to immediately ascribe motivation as many lone young assailants are often a mix of grievance, mental distress and aggressions picked up in social circles and online,” said Brian Levin, professor emeritus at Cal State San Bernardino and founder of its Center for the Study of Hate.

What we know about Tyler Robinson, the young suspect in Charlie Kirk killing(Los Angeles Times)

NBCもCharlie Kirk shooting suspect referenced fascism and memes on bullets, officials sayという記事でネットミームの専門家を取材し同じようなコメントを引き出している。

孤独を抱える人々がネットに集まりありとあらゆる過激化した政治言動から独自の政治観・国家観を作り出してゆくさまは、まさに自己増殖するガン細胞のようだ。

しかしそのガン細胞が餌にしているのは不安や孤立である。アメリカ合衆国に限らず民主主義は既得権を維持するために政治に対してさまざまな働きかけをする。発言力も資金力も強い。つまり政治は不安や孤独を固定するためには役に立つ一方でそれを解消するための役には立たない。

このような状況は日本でも生まれるのか。

孤独や孤立を抱えた人は日本でも増えている。アメリカ合衆国は自己主張を社会的に訓練する傾向があるが、自己主張を控える傾向が強い日本人は自己主張を学ばないままSNSの毒に侵される。失われた30年の間に孤独な「若者」は次第に高齢化している。

MAGAの人々が今回の事件をきっかけに「内戦状態」を意識するようになったとは考えにくい。むしろ自分たちの生活が脅かされているという感覚を持っておりその感覚に合わせた現状認識を社会に広げようとしているように思える。

アメリカ合衆国では時折銃に訴える犯罪が起きるのだが、日本では「社会に参加しても意味がない」というサボタージュ傾向が強くなってゆくのではないか。実際に既存政党がどんなにSNS戦略を強化しても「社会が無力化されるべきだ」と考える人達は意味のない投票行動を通じて勝者を作らないように行動するものと予想できる。兵庫県知事選挙や東京都議会選挙では候補者や議員を脅迫することによって選挙そのものを無効化する動きも見られた。

つまり直接暴力に訴えるアメリカ合衆国とは違い、日本は次第に社会が麻痺する傾向を強めてゆくものと考えられる。

SNSはガンだから規制すべきだと考える人もいるだろうが、SNSミームは次第に複雑化・地下化してゆくだろう。

日本とアメリカに大きな構造的違いは見られない。アメリカ合衆国では時折激痛が走るが日本は慢性病のようにじわじわと社会が蝕まれるという症状の現れ方に違いがあるだけだ。