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行き詰るトランプ経済 とにかくボタンを押しまくる

8〜12分

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トランプ大統領のもとでアメリカ経済が行き詰まりつつある。経済政策立案には緻密さが必要だがトランプ大統領はとにかくいろいろなボタンを押しまくっており一貫性がない。結果的に企業は投資計画が立てられなくなる。トランプ大統領が闇雲にボタンを押せば押すほど格差が拡大し中間層は不満をつのらせてゆくだろう。

トランプ大統領当選の原動力の一つが中間層の没落、つまり格差の拡大だった。トランプ大統領の政策は結果的にますます格差を拡大させつつある。足元では失業率が悪化しインフレが加速している。しかしこのニュースを受けて株式市場は上昇に転じた。FRBが金利を下げてくれればお金持ちがもっと消費できるようになる。結果的に格差は拡大し中間層は不満をつのらせてゆくだろう。

経済統計そのものも揺らいでいる。指標改定による修正は年間で91.1万人マイナスだった。新卒の採用もかなり滞っているはずだがおそらく「自分は仕事が見つけられない」と考える人がほとんどだろう。周囲も同じ状況にあると彼らが知ることはないのかもしれない。

ラトニック商務長官は経済回復のゴールポストを年末にずらしたそうだ。トランプ大統領は自分が大統領になればすべての問題はたちどころに解消すると言っていたが経済でも外交でもそれは実現できていない。

中間層の不満がどちらに向くかが今後の注目ポイントだ。チャーリー・カーク事件においてトランプ大統領は「極左(=トランプ大統領に言わせれば民主党)」を攻撃している。支持者がこの言動を信じるか信じないかが鍵になる。あるいは支持者の中にも分断が生じるかもしれない。フランスでは孤立した弱者が極右と左派に分裂している。

李在明大統領は現代自動車の系列工場の移民摘発のようなことが起これば韓国企業は投資をためらうことになるだろうと指摘し新しいビザ制度の創設を求めている。問題の影響を受けるのは日本や台湾も同じだが韓国の要請に共同対処しようという動きは見られない。日本政府のセンスのなさがうかがえる。

トランプ大統領はとにかく製造業をアメリカに回帰させようとしている。土地とお金さえあれば工場は自然に建つと考えているようだ。このために期待されているのが日本政府が拠出するとされる5500億ドルファンドだ。

しかし冷静に考えてみれば日本政府はそもそも独力で5500億ドルを用立てることはできない。1950年代から1960年代にかけて池田勇人大蔵大臣・総理大臣が財政投融資を集中投下し所得倍増の基礎を作ったことが知られている。

仮に今でもこのような仕組みがあれば自民党政権に対する地方の不満はたちどころに解消していたことだろう。しかしバブル期を通じて日本企業は「政府も金融機関もいざとなれば自分たちを見捨てて逃げてしまう」と学習してしまっている。日本政府が日本のためにお金を準備できないのにアメリカに差し出せるはずはない。自民党の政治家たちは分配ができないどころか自分たちの政治資金の捻出にも苦労しておりパーティー券収入の上がりを誤魔化していた。

ファンドの覚書の内容をJETROがまとめている。覚書によれば日本には拒否権がある。つまり、赤澤経済再生担当大臣の主張は正しかった。しかしラトニック商務長官は日本が出資を拒否すればそれまでの資金はすべて凍結される上に関税ももとに戻ると脅している。つまりこの拒否権を事実上封じようとしたのだろう。

赤澤経済再生担当大臣は石破政権の後には政府に残らないものと見られている。そもそも政府を信用していない日本の企業や金融機関が政府の働きかけに応じるとは思えない。しかし、ラトニック商務長官は「信頼こそがお金を集める」という考え方を理解しておらず、圧力さえかければ日本は屈するだろうというジャイアニズムに囚われている。

トランプ政権の場当たり的な経済運営は結果的に格差の拡大と同盟国の困惑を招いている。あとはトランプ政権を支えてきた中間層がこれに気がつくか、あるいはトランプ政権に先導される形で他者攻撃に向かうのかは誰にもわからない。

いずれにせよアメリカ経済が悪化しているというニュースを投資家たちは朗報だと考えておりニューヨークの株価は値上がりしている。どれだけ多くの人が困窮しようが一部の金持ちたちがアメリカ経済を牽引してくれるだろうという見込みを持っているのだろう。