常々不思議に思っていることがある。自民党の凋落は分配構造の乱れによるものだ。つまり自民党が解党的出直しを行うならばまず分配構造について分析する必要がある。だがそのような議論は見られない。にも関わらず自民党の政治家はやたらに分配したがる。
茂木敏充氏もそのような考え方を持っているようだ。給付も減税も行わず地方交付税交付金を臨時で増やすと言っている。石破総理に至っては国が集められるはずもないお金をアメリカに貢ぎますと約束してしまっている。
なぜ彼らはありもしないお金を分配すると約束してしまうのだろう。合理的な理屈がわからない。
茂木敏充氏が総裁選出馬を表明した。給付金ではなく地方に対して税収の上振れ部を使った数兆円規模の特別地方交付金を配布すると言っている。
一度獲得した税金はオレたちのものだと言いたいのだろう。
自民党は一度取った税金は自分たちのものであり選挙にために有利に使えて当然だと考える傾向がある。消費税に対する反発が強まったときある総理大臣が地方自治体に1億円づつ配ったことがあった。国民は呆れたが地方自治体は喜んで金の延べ棒などを買っていた。
今回の茂木候補の公約はインフレ増税の上がりを国民に分配せずに地方自治体にばらまくというもの。こうして地方議員にお仕事を作ってあげますからどうぞ自分を支持してくださいということになる。呆れるほかない。
自民党の茂木敏充前幹事長は10日、総裁選への立候補を正式に表明した。その上で、物価高対策として数兆円規模の生活支援特別地方交付金を創設したいと述べた。財源は税収の上振れ分で十分対応可能と指摘した。
自民・茂木氏、物価高対策で数兆円規模の特別地方交付金-総裁選公約(Bloomberg)
今回の総裁選はフルスペックで行われる。つまり地方の票を獲得した人に有利な選挙である。都道府県連には地方議員も多いのだから当然自分たちの裁量が増える政策に賛同する人もでてくるだろう。つまり現在の総裁選のやり方を考えると理にかなったやり方なのかもしれない。
ただし無党派層を無視した公約は一般国民の反発を生みさらに自民党離れが加速することになる。茂木氏だけでなく候補は国民民主党と維新に働きかけて国会の数合わせをしてこれを乗り切ろうとしているようだ。
分配を否定するつもりはない。
そもそも戦後の日本の成功は池田勇人総理大臣の所得倍増計画から始まっている。この計画は要するに企業が海外で稼いだ金を政府が一括管理し太平洋ベルト地帯に集中投資するというものだった。このときに使われたのが池田勇人が大蔵大臣時代に拡充させた「財政投融資」だ。
自民党が従来通りの分配を続けたいなら国家による資金の集中管理を正当化する理屈を作らなければならない。集中管理した金は必ず国会議員の裁量となり地方議員を通じて国民生活に分配される。その過程で「規模の経済」が働き国民生活は向上する。未だに中進国から抜け出せていない国はこの過程で躓いているのだから意味のない政策というわけではない。
池田時代と今の違いは何なのだろうか。池田時代は戦後復興期であり国内の産業基盤を復旧近代化させることが重要だった。しかし現在の成長力の源は労働者一人ひとりの知識である。つまり現代版所得倍増計画は労働者の知識基盤整備であるべきなのだ。つまり組織ではなく個人が成功の源泉になっている。
実際には分配構造から排除される人々が増えおり「無党派層」と呼ばれる。教育を受けてスキルを伸ばしても地方には生産性の低い産業しか残っていないのだから一人ひとりの労働者が知識投資するインセンティブがない。無党派層はそもそも分配構造が機能していた時代を知らないから「税金は少ないほうがよい」と考える。
有権者だけでなく企業も国家分配を信じなくなっている。バブル崩壊時期に国も金融機関も企業救済してくれなかった。このため自分たちの利益は自分たちで抱え込むようになった。結果的に企業は地方を見捨て海外に進出。利益は海外に投資され日本には戻ってこない。
さてアメリカ合衆国はこの「財政投融資」のようなものを日本に作らせた。日本は出資分だけを回収する仕組みになっており利益はアメリカ合衆国がほぼ独占的に受け取る。利益が出なければ資金は回収できないだろうが返済義務はない。また日本が追加出資を拒めばその時点で過去の投資はすべてフリーズされることになっているようだ。
だが日本政府はそもそも資金を独力で用立てることができない。企業はすでに政府を信じなくなっており自分たちの将来のために内部留保と言われる利益を溜め込んでいる。
赤澤経済再生担当大臣は「日本にメリットがない事業に資金は出せない」と言っているが覚書に拒否権については書かれていない。そもそも石破政権の延命のためにディール。赤澤氏は次の内閣からは撤退する意向を示しているため「後のことは知ったこっちゃない」といったところだろう。後には国と国の約束なのか単なるメモなのかがわからない覚書だけが残った。
つまりそもそも日本政府は今ある資金をアメリカに貢いだところでゲームオーバーとなる可能性が高い。その瞬間にこれまでの投資はすべてアメリカ合衆国に召し上げられ関税は元の状態に戻る。
アメリカ合衆国政府は産業振興のための金策に困っている。ラトニック商務長官はアメリカ合衆国の大学は政府から支援されているのだから特許収入の一部を連邦政府に差し出さねばならないと主張している。
茂木敏充氏の認識は「一度獲得した税金は自分たちに都合がよいように使う」という自民党の意識を示している。一方で自民党はそもそも自民党は国民・企業からお金を集めることすらできなくなっている。
アメリカに資金を投資するならまず日本国内に投資するほうが先だ。しかしそもそも日本国内で資金を集めることもできなくなっている。当然国が主導しても企業は不確かな約束には応じないだろう。
構図は非常に単純なのだが、彼らがなぜその単純な構図に気がつくことができないのかがよくわからない。永田町周辺の水道に物事が考えられなくなる薬品でも混ぜられているとでも考えない限り理由が説明できない。
