議会が再開されトランプ政権では2つの混乱が起きている。この混乱を理解すると赤澤経済再生担当大臣の訪米がいかに無意味で軽率なものかが見えてくる。
第一の混乱はエプスタインファイル問題である。議会が再開されるとジョンソン下院議長が「プライバシー保護」を名目に文書の完全公開を拒み続けている。これに立腹した被害者が連名で立ち上がり自分たちでリストを作って公開してもかまわないと申し出た。これに呼応したのが熱心なトランプ支持者で知られるテイラー・マジョリー・グリーン議員だ。免責特権を使って加害者の名前を議会で証言すると言っている。
- エプスタイン事件が15歳の私を変えた――被害女性に独占インタビュー(CNN)
- MTG threatens use of constitutional immunity to reveal Epstein associates(Axios)
このエプスタインファイル問題は日本で言えばジャニーズ被害者の会のようなもの。「被害者はかわいそうだ」とする国民感情に直接訴えるところがある。
トランプ大統領が告発されているわけではないがトランプ大統領は民主党の党派的なでっちあげだと反発している。しかし実際には共和党の議員の中にも解明を訴える議員がいる。
第二の混乱は保健福祉省のゴタゴタだ。ロバート・ケネディJr長官は科学的に証明されていない陰謀論を振りかざすことが多い。中には凶悪犯罪とワクチンの影響を示唆するものもある。このため民主・共和両党から激しい反発を受けている。議会で聴聞が行われ厳しい追求を受けたようだ。
CDCのワクチンを巡る情報が錯綜しており現場では自己判断による対応が行われているようだ。医師や科学者たちは保健福祉省を強く批判している。フロリダ州のようにワクチン接種の義務化を廃止する州も出てきたがカリフォルニア、オレゴン、ワシントンは「ワクチン同盟」を結成しこれに対抗している。アメリカ合衆国は諸政策を巡り内戦状態にあるが公衆衛生も政治的な武器として用いられている。
このようにトランプ政権の混乱は純粋な政治課題というよりは国民感情に直接訴えかけるものが増えている。
この他に関税問題も泥沼化している。二審判決によりトランプ関税の大部分は違法ということになった。判断が確定すれば関税は差し止めになり多額の払い戻しが行われるが企業は払い戻しをエンドユーザーに払い戻す必要が出てくるだろう。
二審判決は下級裁への差し戻しだったがトランプ政権は最高裁判所への上訴を決めた。「裁判所が大統領の政策を指図すべきではない」とする命令を期待しているものと見られる。しかし実際に最高裁判所が審理を受け付けるかどうかは未知数。仮に審理を受理しなければその時点で二審判決の猶予期間が終了し関税が一旦停止される可能性が出てきた。
全般的に落ち着かない状況が続いていることを考えると今の段階でまともな関税交渉の覚書など作れる環境にないことは明らかだが、石破政権は党内に吹き荒れる石破おろしを阻止しなければならないという別の事情を抱えている。赤澤経済再生担当大臣は総裁選の前倒しなど必要ないとの見通しを示し大統領令の一刻でも早い発出を求めて10回目の訪米を強行した。トランプ大統領は関税で敗訴すると日本などから勝ち取った合意が水の泡になると言っているがそもそも何を勝ち取ったのかがよくわからない。つまり成果を強調するためにことさらアメリカ有利になる合意を勝と取ろうと躍起になる可能性がある。
