【漠然とした不安】自民党の支持が回復しない根本的な理由

自民党が敗戦総括を出した。解党的出直しを行い立党70年プロジェクトを通じて国民の信頼を取り戻すと言うことになっている。だがおそらくこれでは有権者の支持は戻らないだろう。

第一の理由は子どもでもやらないような誤魔化しである。誰かが敗戦の責任を取らなければならない。しかしながら今の体制は壊したくない。だから形式上辞表を出したことにしてそれを預かるという形で決着を図ったものと考えられている。

こうしたごまかしの手法は様々な形で展開されている。今話題の移民問題も「言い換え」が効かなくなった事例の一つである。

• 絶対に「移民」と言ってはいけない日本　アフリカ交流問題の本質はメディアと政治不信（産経新聞）
  

そもそも有権者たちは何に不安を感じているのだろうか。自民党が誤魔化しているのが不満なのか。それとも分前が少ないことに怒っているのか。

いや、そうではないのではないか。問題は社会のバベル化だ。

テレビ朝日が石破退陣デモの参加者にインタビューを取っている。参加者たちは口々に「このままでは日本が数年で駄目になる」と訴えていた。中には日本が外国人に占拠されてしまうと考える人もいるようだ。

このインタビューを見て気がついたことがある。

第一に参加する人たちの年齢が高齢である。次に彼らは家でSNSを見て危機感をつのらせている。次に彼らが家族や友人とこのことについて話し合いができているのだろうか？と感じた。証明こそできないがおそらくその答えはノーだろう。

こうした有権者の孤立は今に始まったことではない。2023年にはすでに孤立した高齢者が保守化したという問題が語られている。

日本には政治教育がないと言われる。確かに「公民」の授業を通じて民主主義の仕組みについては学ぶが自らの生活と接続するような社会問題をクラスメイトと話し合う合うような取り組みはない。今問題になっている世代は公民の授業すら受けていない。さらに国語能力も落ちており「機能的非識字」も広がっているとされる。文字は読めるが日本語の論理構造が理解できない人が増えている。

Quoraの政治フォーラムを通じて自らの生活に接続する政治課題について気軽に語れるような場所を作ろうと考えているのだが、参加者はあまり自分たちの暮らしの実感について語りたがらない。

何か阻害要因があるというわけではなくそもそも「自分たちの生活実感と政治を重ね合わせた上で他人とシェアする」という発想がないと考えるべきなのではないかと思う。ただ政治の情報を得たいという人は多い。これを書いている時点でフォロワーは9040人である。無名のプラットフォームにしては多くの人々が政治課題には関心がある。マスコミは信頼できないがネットの情報は断片的すぎると考える人も多いのではないか。

周りに多くの人々がいるにも関わらず、SNSで一人孤独と危機感をつのらせている人々の意識はおそらく主観的には真実なのだろう。そして彼らはそもそもその意識を他者と共有したいとは考えていない。否定されるのが怖いからだ。

自民党は「分配のパイプ」が壊れることによって選挙に有権者を抱き込むことができなくなっているのが問題だと考えているようだ。そこで補正予算を組めば問題は解決するのではないかと考えている。ただしシルバー民主主義を維持するためにどれだけコスパよく若者を買収できるかという考えが透けて見える。

あくまでも実利問題と考える自民党と有権者の間には超えがたい意識の乖離がある。

このギャップを埋めるためには漠然とした問題を抱える有権者が課題を言語化して自民党に説明しなければならない。しかしそもそも大勢の中にいながら孤独を感じ周りと危機意識を共有できる言語能力も持たない「バベル化」した人々にそんな事ができるはずもない。

おそらくこのままヘゲモニーを握る政党は現れず玉木雄一郎氏が主張するような多党乱立の政治状況が続くのではないか。

• 国民民主・玉木氏「二大政党制ほぼ困難」　多党化時代のルール必要（日経新聞）