地元にある製鉄所の人員削減に悩む木更津市。人口減に直面した木更津市の選択はナイジェリアからの移民受け入れだった。こう書くと信じる人も出てくるのではないか。
JICAのホームタウン構想によって不安を掻き立てられた人たちが木更津市役所に抗議電話をかけ続けている。ついには県知事にもクレームが入り熊谷知事は対応に追われた。
そもそもこのニュースはTICAD閉幕後から話題になっていたようだが全く気が付かなかった。一部ではかなり盛り上がっていたようだがSNSのレコメンデーション機能によって知っている人と全く知らない人が完全に分離していることがわかる。
なぜこのような間違った思い込みを持つに至ったのかとしばらく考えたのだが、そもそも何らかの情報を得て思い込んだというよりは最初から「政府は日本人を移民に置き換えようとしている」という前提を持った人がいると考えるほうがスムーズに問題が説明できると感じた。
日本人は変化を嫌う。そのため政府はまずアドバルーン的な記事を新聞社に書かせ徐々に変化を浸透させてゆく。高齢化と都市への人口流出に悩む地方対策としての外国人労働者受け入れは「移民ではない」という建前になっており、新聞のメッセージングは一貫している。いっけん政府が国民を騙しているように思えるが新聞の刷り込みのために面倒なことを考えなくてすむようになっている。
ただよく考えてみるとそもそも新聞を読まない人が増えている。こうした人達はダイレクトに情報にさらされるわけでセーフティネットがない。
改めて経緯をおさらいしてみよう。
JICAが4都市を「ホームタウン」に認定した。特定の国と都市を結びつける計画。この発想の源流がどこにあるかはわからないが2002年ワールドカップで大分県の中津江村がカメルーンの選手を受け入れその後交流を続けているという成功事例がある。
ところがBBCの英語版がナイジェリア現地の報道として日本が特別のビザを準備し、なおかつ木更津市が積極的にナイジェリア人を受け入れる体制を整えたと報じた。この報道がきっかけで木更津市が特別ビザを発行しナイジェリア人を受け入れようとしているという憶測が生まれたようだ。
問題が起きると政府が反応しナイジェリア政府に訂正を求めている。この訂正にしたがってナイジェリア政府は情報を書き換えた。また極右的反移民感情を刺激したと気がついたBBCも慌てて木更津市に取材をし報道を軌道修正している。
訂正記事が出た後もネットの情報は更新されず木更津市には抗議電話がかかってくるのだという。問題を重く見た官房長官も日本は移民を受け入れないと言っている。JICAの制度はインターン制度で一定期間しか滞在できないという。
木更津市の担当者は誤情報だといい林官房長官も丁寧な説明を心がけると言っている。しかし実際には石破総理は34人とマラソン会談を行っておりおそらく丁寧な説明などしている時間はなかっただろう。ナイジェリア政府が持った印象が「間違い」といえるのか。疑問が残る。
日本の現役世代は既存政党にとってはシルバー民主主義を財政的に支える労働力程度の存在でしかない。人口流出に悩む地方都市が「選ばれる都市」を目指して定住促進をしているのも事実である。特に木更津市は通勤電車1本で東京と結ばれておりストロー現象によって地元経済は縮小している。
新聞になじみがある世代は日本人には移民を受け入れたくないという気持ちがあり政府がそれに配慮して移民を「一時労働者だ」と説明しているということを知っている。だからこのような記事を見たとしても「なにか誤解があるのだろう」と考える。さらに政府の説明が移民を受け入れないという建前と労働力不足から外国人労働者に頼らなければならないという本音を使い分けていることも理解している。
しかし、そもそも新聞を読まない世代にはそのような常識はない。一度不安を煽る情報をクリックしてしまうと次から次へとレコメンデーションに従って不安を煽る情報が出てくる。中にはクリック数稼ぎの人もいるだろうがそうでない人も混じっているかもしれない。
これまでの新聞やテレビを使った情報操作が次第に成り立たなくなっているのである。
なおQuoraでこの問題を書いたところYouTubeではもっと極端な情報が流れていると教えてくれた人がいた。また今治市も同じような計画を持っておりまだまだ油断できないとする書き込みがあった。NHKによるとグーグルマップが書き換えられる事例があった。
千葉県の熊谷知事も当初は「誤情報だ」と反発していたが後にネットにある危機感は本物だと気がついたようだ。新聞購読層が持っている感情的なセーフティネットを持たない人たちが巷に溢れていると気がついたのだろう。
各政党ともSNSを使った宣伝を強化すべきだと訴えている。しかし実際にSNSを使ってみなければ彼らが持っている我々とは全く違った感覚は理解できない。とにかく違う宇宙が広がっているくらいの認識を持ったほうがいい。
