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なぜ、トランプ政権が無理難題を突きつけても日本は対米戦略を見直さないのか

9〜13分

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Bloombergが「トランプ外交で揺らぐ米国への信頼、アジアの同盟国が戦略見直しへ」という記事を出している。

トランプ大統領に外交戦略の修正を求める内容で日本がアメリカとの同盟関係を見直すのではないかとしている。だがおそらくこれは杞憂に終わるだろう。

このエントリーでは3つの理由を挙げてなぜ日本が対米戦略を見直すことはないのかを説明したい。

日本は戦後一貫してアメリカをかけがえのないパートナーとみなしてきた。しかしこの姿勢は第二次トランプ政権のもとで危機にさらされている。一部の政党は核兵器保有の是非に踏み込んだ提言を行っている。

こう分析するのは東京支局を拠点に日本の政治とアジアの安全保障を担当する記者。つまり日本を全く知らない人の発言ではない。しかしながら日本人の心情をあまり理解しているとは言えないのではないかと思う。

第一に目につく問題は参政党の主張を根拠にしているという点。同じBloombergのリーディー氏は参政党は漠然とした不満の受け皿であると考えている。おそらくこちらのほうが適切な分析だ。日本語に訳するならば「お気持ち」と言って良い。

日本の世論形勢には新聞とテレビが大きな役割を果たしてきた。ところが生活に余裕がなくなると新聞を購読する人が減る。結果的に日本政治のコンテクストを知らない人達が増えている。彼らは主観的な気持ちを優先させてネットから断片的な情報を集める傾向にある。最も適切な形容は「ミノムシ」だ。心情を守るために断片的な情報を糸でつなぎ合わせて外套を作る。

この断片化した言論空間に浸透したのが参政党だ。確かに一部候補者から核兵器を容認するような発言はあった。東京選挙区から出馬したさや氏は「核兵器は最も安上がり」と発言し当選している。

しかし、参政党党首は参政党の掲げる憲法案や核兵器問題に対して党の明確な見解を出しておらず政策面では場当たり的な印象がある。神谷代表は核兵器は必要ないと言っているが論争を避ける狙いがうかがえるだけでどこに真意があるのかはよくわからない。

一方でAfDの共同党首と会談するなどして現役層が持っている既得権に対する不満をすくい上げようとしているという側面がある。

参政党は心情を優先する政党でその時々にそれにあった「政策」を打ち出す側面がある。しかしこれは断片化した日本の新しい政治言論を代表しているに過ぎず外面的な一貫性がない。

第二に日本人には自分たちが「下」とみなすものには雄弁だが「上」とみなすものには従順という極端な二重性がある。

個人主義のアメリカ人とは違い集団主義的な色彩が強く自分の集団での地位を最大化するために心理的改竄を試みる傾向が強い。韓国の「反日」には雄弁だがアメリカ合衆国が日本を侮蔑する発言を繰りかえしても受け流そうとする傾向が強い。おそらくトランプ大統領が日本に圧力を強めても、どう受け流すか・どうへつらうかを考えることにしかならないだろう。自民党関係者の発言も不安の受け皿という側面が強く本当に対米強硬派に転じたというわけではない。

最後に自民党の問題がある。これまでの自民党の中には日米同盟重視派とバランス外交派という2つの流れがあった。この流れは派閥という非公式な集団の中で取りまとめられ総裁選挙を通じて集約される傾向があった。ところが「政治とカネ」の問題で派閥が絶対悪とみなされるようになり麻生派を除く派閥が解体した。

結果的に残ったのは長老たちの個人的な意地の張り合いと烏合の衆のお気持ち表明だけである。

石破総理はこの程韓国の李在明大統領に対して「河野談話・村山談話を引き継ぐ」と表明した。しかしこれは彼個人の考えであって派閥の意見を代表しているわけではない。また石破総理は周囲の人々に影響を与えるリーダーシップはないため石破イズムを受け継ぐ集団も作られていない。今の総理大臣を支えているのは政治とかねの問題を反省しない自民党安倍派に対する反発と「倒閣に参加して恨まれたくない」という自民党議員の恐怖心だ。

石破総理の長年の主張はおそらく安倍総理のもとで推し進められた無理な日米同盟維持からの脱却だろう。これは「政治信条」に基づく政策的意思決定と言える。

安倍政権は日米同盟の形骸化を恐れて憲法の解釈を変えてまでも日米同盟を強化する路線を選択した。この時に現場の責任者として石破氏を据えようとしたが石破氏は「異例の拒否」を行いこの役割から逃げている。

つまり仮に石破政権が日米同盟の考え方を変えたとしても周囲に広まらない以上は彼個人の考えである可能性が高く、第二次トランプ政権の過激化とはあまり関係がない。

さらにこの個人の考え方がグループを通じて広まる可能性は(少なくとも今のところは)あまり高くない。

このように日本の政治は政策ではなく「個人の気持ちや心情」によって捉えられることが多い。日本人は眼の前で国際情勢が変化しつつあるという現実を受け入れることはなくこれまでの日米同盟にしがみつき続けるだろう。そしてその不安を払拭するためにミノムシのように情報を集めて周りを囲い身を守ろうとするのだ。

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