各党協議の席で自民党が「ガソリン減税には応じてやってもいいが代わりに別の税を差し出せ」と言っている。また給付についても全員給付はやらない方向だそうだ。
参議院選挙の結果はかなりわかりやすいNOだったが、おそらく自民党の執行部はなぜ参議院選挙で負けたのかよくわかっていないのだろう。
最大限自民党に寄り添った表現をすると有権者は負担に怒っているのではない。今の負担水準が続くと自分たちの将来の見通しが立てられないことに怒っている。つまり解決策は減税ではなく明確な将来ビジョンの提示だ。そしてそのためには有権者が何を考え自分たちのことをどう見ているのかを把握する必要がある。
メタ認知という言葉がある。「自分が世間的にどう見られているか」を察知する能力だが高齢になると衰えるとされる。ただし非常に個人差が大きい。中高年から初期老年に差し掛かるあたりの人はそろそろメタ認知能力の低下を疑いつつ周囲を理解する訓練を始めたほうがいい。
自民党の敗因をニュートラルに記述すると、
- アベノミクスで先延ばしにしていた「インフレ」に対応できなかった
となる。
インフレには色はないが「成長」を感じる人と「物価高」を感じる人が二極化する。つまりインフレは格差を拡大する。本来ならデフレ脱却宣言を出し将来への見通しを示すべきだった。格差を縮めますと言ってもいいし、成長について行けない人はこれから先大変ですよと言ってもいい。とにかく見通しを示すことが重要だ。
しかし自民党はデフレ脱却宣言を出さないままで「物価高対策は必要」と言ってしまった。現在の状況は自民党が長年誘導してきた出口だがいつのまにか「対策が必要な悪」ということになってしまった。安倍派が自己正当化にこだわりなおかつ安倍派を否定したい石破氏が総理大臣になってしまったことで事態はますます複雑になっている。
将来展望が見いだせない中で国民は現在のインフレは単純悪だと考えるようになり「これ以上の負担はできない」と頑なになっている。
そんな中、ガソリン減税に応じる代わりに別の財源をよこせなどと主張すれば国民に反発されるに決まっている。自民党がこれに気が付かないのはおそらく自分たちが国民からどう見られているのかというメタ認知能力が落ちているからなのではないか。
ただ今回のガソリン減税のニュースは「財源で折り合わなかった」以外の情報がなくさほど深堀りできそうにない。そう思って共同通信をチェックしたところ「自民党が給付を修正する」という別のニュースを見つけ頭を抱えた。
野党は給付ではなく減税を求めている。ところが自民党はこれを曲解し「野党が(なぜか)反対しているから給付の対象を絞る」と主張しているそうだ。選挙は終わったのだからもう「人参はいらない」ということなのだろうがそのために野党の反対を利用している。
本来なら自民党批判につなげたいところなのだが、この後まとめようと思っている政局のニュースも合わせると「自民党は大丈夫なのかなあ」という心配のほうが先に立つ。
自民党議員の中にもメタ認知能力がある人々がいる。しかし比較的若い彼らの意見が党の意思決定に取り入れられることはない。結果的に「自民党全体」という大きな主語で括られることになってしまっている。これは極めて残念なことだ。
