日本では全く注目されていない。あるいは直視したくない人が多いのかもしれない。トランプ大統領が「習近平は私の任期中には台湾を攻めない」と主張。米軍と保守強硬派が主張する2027年までに台湾侵攻があるという説を否定した。中国囲い込みは意味がなくなりしたがってアメリカ合衆国は日米同盟・日韓同盟に関心を示さなくなる。日本の安全保障の土台は崩壊しつつある。
今回「トランプ大統領は政治をリアリティショーのように考えている」と書いた。突飛な主張だがこの「中国は台湾有事に動かない」を考えるうえでは重要なファクターだ。トランプ大統領は理由を示していない。おそらく理由はないのだろう。
「トランプ大統領ノーベル平和賞への道」というリアリティショーを制作中のトランプ大統領。プーチン大統領というビッグキャストとのコネができた。件の発言はこのときのもの。ゼレンスキー大統領とヨーロッパ首脳たちに取り入るような発言が多かったのと同じように中国に対する態度が一変しているのだから「ショーのキャスティングには重要な要素」だったのだろう。
この発言は極めて重要。伝統的なアメリカの世界戦略はリアリズムが起点になっている。ところがトランプワールドではこれが逆転している。このためトランプ・プロデューサのシナリオによって「敵と味方」に一貫性がない。世界戦略が一貫しない以上はアメリカとの同盟を基礎にして安全保障を組み立てることはできないということになる。
では日本は日米同盟を捨てるべきなのか。そうならないのが国際政治の難しいところだ。NATO側もリアリティショーごっこに付き合い「トランプPの番組制作のためには安全保障の枠組みが必要ですよ」と言っている。日本を含めた30カ国がヨーロッパの構想に乗っているとNATOの事務総長は主張しており石破総理もそれを認めている。ヨーロッパと日本は「アメリカがどこかに行ってしまわないように」と既成事実を作ろうとしているのである。
つまり日本は日米同盟の引き止めを行いつつ日米同盟が機能しなくなった時にどうするかを真剣に議論しなければならないフェイズに入った。だが、中国を念頭に日米同盟の強化を図ることは難しそうだ。
さてこの背景で興味深い動きが起きている。グローバルサウスに「トランプ関税被害者の会」が結成されつつある。
プーチン大統領はトランプ大統領と会談した後でインドや南アフリカの首脳と会談した。これを受けたインドのモディ首相は国境紛争を抱える中国に接近している。事態をややこしくしているのがルビオ国務長官だ。モディ首相の頭越しにパキスタンとインド軍のトップに和平仲介の電話をかけている。ノーベル平和賞を追い求めるトランプ大統領が要請したのかルビオ国務長官が独自で動いたのかはよくわからない。おそらくモディ首相は面白くなかったのではないだろうか。
そんなモディ首相は中国の王毅外相と非公開で会談することになっている。王毅外相はその後パキスタンに向かうそうである。
トランプ大統領リアリティショー撮影説は突飛な異説に聞こえるかもしれない。しかし仮にアメリカがリアリティ外交を展開していれば陣営を固定した上で当事国に戦略的に対応しているはずである。
ところがトランプ政権の対応はディールが起点になっているため、アメリカ合衆国が当事国に対して何を考えているのかがよくわからない。トランプ関税に振り回されている日本などもその一例である。
この一貫性のないアメリカ合衆国の外交姿勢は各地で「トランプ被害者」を生み出している。今回のインドと中国の接近の試みなども「被害者の会」の一つだろう。
