本日のテーマはアメリカ覇権時代の終わりである。このエントリーではまず現在起きていることを分析する。
トランプ大統領がロシアのプーチン大統領とアラスカで会合を持つ。ウクライナの頭越しに領土割譲について議論するものとされている。ウクライナは領土割譲を拒否しているが、ロシア・ウクライナ・アメリカ合衆国の三者会談の可能性も残っているとされる。
アメリカ合衆国は力による現状変更を許すべきではないといういらだちを感じるが、そもそもいらだっている時間が無駄なのではないかと思う。
選挙キャンペーン中のトランプ候補は私ならウクライナの戦争を1日で終わらせることができると主張していた。しかしロシアには戦争を終わらせるつもりはないし、結果的にトランプ大統領は就任以来ウクライナの戦争を終わらせることができてない。プーチン大統領の動機は現在の国際秩序とは違った仕組みで世界を統治することである。ロシアとヨーロッパは宗教が違う。ロシアは専制主義を信じておりヨーロッパは民主主義を信じている。ロシアは周りをアラブに囲まれたイスラエルのような状況にある。
トランプ大統領はウクライナの領土割譲についてほのめかしロシア有利の状況を作っている。ウクライナはこの提案を拒否。ヨーロッパもまずは停戦が先だと主張している。
Yahooニュースには関連記事への論評がいくつも出ている。ヨーロッパの無力さを嘆き苛立つものが多い。国際政治の専門家たちは「あるべき形」が崩れ始めていることに苛立ちそれを回復する有効な対策がないことに絶望しているようだ。
トランプ大統領が国際問題に関わる動機は2つある。1つは自分はディールの天才であるという誇張された自己理解。もう1つはオバマ元大統領がノーベル平和賞を取れているのにオバマ氏より優れている自分がノーベル平和賞を取れないのはおかしいという名誉欲である。どちらも国益ではなく私益である。
CNNはトランプ大統領の交渉はロシアの勝利・ウクライナの緩やかな敗北で終わるだろうという絶望的な予想を出している。
プーチン大統領はウクライナ和平に応じていない。仮にトランプ大統領の目的がウクライナ和平であればトランプ大統領はいらだっていただろう。しかし彼の動機は自分がいかに有能な交渉者であるかを示すことなので相手が抵抗すればするほど興奮する。
まず、プーチン大統領に対して関税による恫喝を仕掛けた。プーチン大統領はこの関税による恫喝に乗ったふりをしてアメリカ合衆国と交渉し「領土分割」について持ち出せばいい。トランプ大統領の交渉欲は満たされる。
このトランプ大統領のビジネスマンごっこはすでに経済に大きなダメージを与えている。日本との関税交渉は「言った言わない」の大騒ぎになった。最終的には日本の主張に合わせて「事務の滞り(アメリカ側はミストは言っていないようだ)」ということになった。しかし同様のトラブルは文書を交わしたイギリスとの間にも起きているようだ。トランプ大統領の混乱した世界に合わせることで合衆国政府の事務手続きには大きな乱れが出ている。さらに裁判も進行中で「関税そのものの違法判断」が出る可能性も残っている。
込み入った国境線を持ち多くの国が失われてきたヨーロッパにとって「力による現状変更」は決してあってはならないことだ。だから、プーチン大統領にとっては、ウクライナの領土分割が実現しなくても構わない。力による現状変更をアメリカ合衆国に認めさせることでヨーロッパとアメリカ合衆国の中を引き裂くことができる。
NATOのルッテ事務総長は「トランプ大統領がロシアの行為を正当化するリスクはないだろう」としている。仮にアメリカ合衆国がロシアの行為を正当化したとしても「正当化したわけではない」と解釈するよりほかに道はない。ボルトン氏はこれに対して「プーチン大統領がKBGで培った魔法を試す良い機会だ」と応じる。
現在、アラスカ州にゼレンスキー大統領を迎え入れる準備も進んでいる。だが仮にゼレンスキー大統領がいる場所でロシアとアメリカ合衆国がウクライナに対して領土割譲を迫るということになればおそらく事実上NATO体制は崩壊する。実際にはゼレンスキー大統領は出席しないほうがいいのではないかとさえ思える。トランプ大統領がウクライナの領土についてなにか決められるという法的根拠はない。
重要な点は2つある。
第一はロシアとヨーロッパの間の均衡だ。ロシアの専制主義的な体制が周辺国に受け入れられる可能性は低いが軍事力ではロシアのほうが有利である。つまりヨーロッパの実験的な主権国家を超える試みはロシアによって破壊されようとしている。そして実際に世界を動かしているのは軍事力である。
第二にトランプ大統領は一貫して私益に基づいて行動している。これはトランプ大統領個人の資質であってトランプ大統領の次の大統領は「正常な」大統領に戻るのではないかと期待する人もいるだろう。おそらくそうはならないのではないかと思う。
