TBSがアメリカン・イーグルのジーンズの広告について取り上げている。ジーンズと遺伝子(ジーン)をかけた内容で白人こそが素晴らしい遺伝子を持っているとの主張。
本来なら炎上してもおかしくないはずだがトランプ大統領が称賛したことで株価が上がったそうだ。白さを称賛しているうちはいいのだがそのうちアメリカ社会を漂白しろという「漂白思想」に変わりかねない。
人権大国のアメリカで優生学的思想を持ったCMが成功するとは……という驚きがある。
TBSがアメリカン・イーグルの広告を取り上げている。白い肌と青い目は「すばらしい」という内容。
アメリカン・イーグル側は人種差別的な内容ではないとしている。ただ、あからさまな表現に対して「気の持ちようだ、コチラにはそんなつもりはない」と否定してみせるのは差別を肯定している人によく見られる反応である。
アメリカンイーグルの株価は低迷していたがこの炎上を受けて株価が回復している。炎上は財政的に「成功した」と言って良い。
実はこうした広告はアメリカでは珍しくない。白ければ白いほどよいという価値観は深くアメリカ社会的に浸透している。
2018年にBBCが「「人種差別」広告はわざとなのか」という記事を出している。恣意的に人種差別を意識したものかどうかの境界線は極めて曖昧だが、とにかく当時は謝罪の対象となっていた。第一期トランプ政権のトラウマがあり強いキャンセルカルチャーがあった時代だ。
今回のアメリカン・イーグルの広告を「トランプ時代の徒花」のように感じる人もいるかも知れない。しかしアパレルに詳しい人はアバクロンビー&フィッチの一件を思い出すだろう。
アメリカ合衆国にはスクールカーストというものが存在する。平等な社会ではなく価値観に基づく極端な序列社会。これを社会的な意識によって抑圧している。アバクロンビー&フィッチはこのスクールカーストに注目しカーストの上の方の人たちに向けたマーケティング戦略を行った。
しかし、次第にこのスクールカーストはアメリカの若者に受け入れられなくなってゆく。世代が移ったことで「前の世代の人達」がダサく見えたのだろう。結果的にアバクロンビー&フィッチは「最も嫌われるブランド」に成り下がった。CEOは不買運動の責任を取って辞任を余儀なくされた。
こうした社会的序列は実力のみによってもたらされるわけではない。評価基準には「美」という遺伝子的な要素が含まれておりこれは社会的成功で補うことができない。
アバクロンビー&フィッチのCEOは「アバクロは美しい人に向けた服を作っている」と主張していたが晩年のCEOの顔はかなり不自然な状態になっていた。もともと容姿にコンプレックスがあったのかそれとも老化に抗ったのかはよくわからないがお金と医学の力でなんとかしようとしたのだ。
このCEOは後に男性モデルとの不適切な性的関係で告発されることになった。美しいものに対する執着と「お金を持っている自分が一番えらいのだ」という歪んだ序列意識の暴走と言えるだろう。
トランプ大統領も「少女に対する並々ならぬ関心」が注目を集めるエプスタインファイル問題の渦中にあるとされている。またトランプ大統領の妻も「トロフィーワイフ」と呼ばれる美しい人物。
トランプ大統領は演説の中で盛んに「美しい」という言葉を使いたがる。その一方でオバマ元大統領やトルドー元カナダ首相など「シュッとした」タイプの政治家には敵意を燃やしている。実は自分が美しくないことをよく知っているのではないかと思う。だからこそ肌の色を不自然にオレンジにしたり老化をメークアップで隠したりする。
お金を稼ぎ地位を得ても「彼が本来欲しかったもの」を手に入れられるとは限らない。一方で自分たちは成功したのだから何でもできて当然であるという意識を持っている。
アメリカ合衆国は強いルッキズムにとらわれているからこそ、行き過ぎた脱却と行き過ぎた受容の間を振り子のように揺れ続けていると言えるのかもしれない。
