9,100人と考えAIとも議論する、変化する国際情勢とあいも変わらずの日本の行方


【教科書に載せたい】日本のコメ政策はなぜ破綻したのか

11〜16分

イイネと思ったら、Xでこの投稿をシェアしてください

MBAコースを取るとハーバード・ビジネス・レビューを読む授業がある。ケースをもとに失敗を学ぶ。

今回、日本政府がコメ政策の転換を発表した。ケーススタディになり得る失敗だと感じた。小泉農水大臣は「責任を痛感している」と言っているが一体なんの責任を痛感したのかがさっぱりわからない。やはりこの人は情緒の人なんだろうと感じる。選挙応援の担当を続けるべきであって大臣には向いていない。石破総理もコメの増産を目指すとしているがこれも実現しないだろう。早場米の取引が始まっているそうだが今年のコメも高くなりそうだという予想になっている。

今回の学びは現場からのちょっとした違和感をそのままにせずモニタリングを充実させるべきだということになる。だがおそらく日本政府もマスコミもこの結論にはたどり着けないだろう。つまりこの先も日本人は結果が出てから慌てることになる。健康診断で病気の発症が見つかってから慌てるようなものだ。

日本政府が長年の「事実上の減反政策」の転換を発表したとBloombergが記事にしている。2018年に減反政策は廃止されたが「事実上の」減反誘導が続いていたとしている。

農水省がなぜコメが不足したのかについて分析している。だいたいワイドショーがいいったことやQuoraのコメント欄で指摘されていたことが書かれている。猛暑の影響で歩留まりが下がり、コムギの価格が上がったことでコメに回帰する人が増えたのであろうというような内容だ。

農水省は人口が減るからコメの需要の減ってゆくという前提で政策を組み立てていたがこれからは現場をしっかり見るようにするから大丈夫だというのが「対策」になっている。

なんとなく「よくまとまっている資料だな」とは思うのだが、そもそもなぜ農水省が現場を見なかったのかは一切語られていない。江藤前農水大臣の発言からは農水族と農水省が一体の利益共同体を作っていたことがうかがえる。彼らは「コメの値段は低いのでこれ以上コメを作られるとさらにJAが困窮する」と考えていたのではないかと思う。メディアは「なぜ農水省は事実上の減反政策にこだわったのか」「農水族はなぜ減反政策を維持しようとしたのか」を取材すべきだろう。

ただし農水族の歪んだ認識は今回の議論のメインテーマではない。

今回の農水省のレポートからは実はコメ不足の兆候が数年前から出ていたことがうかがえる。酷暑は今に始まったことではない。またウクライナの戦争によるコムギ価格の高騰も数年前の出来事である。

ではなぜ農水省はこれらを見逃していたのか。おそらく「結果」がなかったからだろう。それは価格である。

日本には強いデフレ圧力が働いている。小売店は「小売価格を上げてしまうとお客が逃げてしまうのではないか?」と感じているのだ。このため品薄になってもコメの価格は上がらなかった。

このトレンドが一気に変化したのが南海トラフショック。コメが店頭から消えるとマスコミはこぞってコメの問題を特集。「あ、コメが足りていない」とみんなが気がついた。

おそらくJA幹部・農水省・農水族は「コメの価格が下がり続けるかもしれない」と根拠なく信じており、小売店も「価格を上げるとお客さんが逃げるかもしれない」と信じていた。

こうした思い込みが市場を支配する中で誰も「実際の現場をきちんと見たほうがいいのでは?」と考えなかったというのが今回の問題の根幹だ。

日本人は論理的に積み上げてゆくような考え方が苦手でエビデンスも集めようとしない。しかし「価格が上がった」という結果には敏感に反応し「どうするんだ?」と騒ぎ出す。

しかし、そもそもJA・農水族・農水省というムラを形成していた人たちに現実対処能力はない。危機に陥った閉鎖された人々は「そうだ新規業者がコメを盗んで高く売っているに違いないぞ」と被害者意識をつのらせ、買い負けていたJAにコメを補填する政策を実施。しかしムラには現場の人は含まれていないため現場は「そんな、急に言われても困るな」とコメをなかなか市場に出さなかった。もはやムラはまともなマネージメント能力も失っていた。

コメの価格高騰の原因は3つに分解できる。

  • 輸入品物価が上がりコムギが高くなっており、相対的にコメの価格が安くなっていた → インフレ
  • 気象変動(夏場の高温)
  • コメ農家の高齢化問題

つまりこれまで生活習慣を見直さなかった人がついに成人病を発症し慌てているようなものだ。小泉農水大臣は「責任を受け止める」と言っている。しかし、慢性疾患を発症した人が「これまでの不摂生を反省し責任を痛感している」などと情緒的に語ってもなんの意味もない。症状に苦しみつつこれ以上悪化しないように薬を飲むのが関の山である。

間の悪いことに今年は異常気象。北陸では渇水が続き、関東にはドライフェーンと呼ばれる高温の風が西から吹き付けている。ついに41.8度という最高記録を更新してしまった。

小泉農水大臣は給水車を稼働して渇水対策を行うそうだ。焼け石に水という指摘もあるようだが何もやらないわけには行かない。

早場米が出るとコメ不足は解消されるだろうという見込みがあったが実際には去年を超える高値で取引されているという情報もある。

石破総理は「コメの増産を目指す」としているそうだが、おそらくすぐにコメを増産する体制に切り替えることは難しいだろう。昨日も書いたように、立憲民主党などと協力して自民党の墓標を刻むのが石破総理の最後のミッションだ。対策はおそらくこの内閣では無理だろう。「反省」はできるかもしれないが、党内の派閥は誰も彼にはついてこない。そもそも総括する能力を失っているからである。

石破総理は自己反省を拒む人々を説得することはできなかった。結果は出たが自民党の腐敗もまた慢性病の領域。彼にできることはおそらくポストモーテム(after death)だけだろう。プロジェクトの敗因分析のための言葉だが、もとの意味は検死解剖=腑分けである。

コンテンツのリクエストや誤字脱字の報告はこちらまで