今回は最低賃金について書くのだが、テーマは石破総理に与えられたミッションである。なんの関係があるのか。
勉強不足なのかもしれないが、憲法をいくら読んでも「与党の支持を失ったから総理大臣が下野する」という規定はない。
最低賃金が6%引き上がった。赤澤経済再生担当大臣が異例の介入を行い反発も広がっているそうだが石破総理は「経済成長の要」だと言っている。これは大学で経済学を学んだことがある人であれば誰でも指摘ができる間違いだ。賃上げは経済成長の「結果」にすぎない。
日本はアメリカの世界戦略に乗って作られた国。外国から輸入した資源を使い、ものを組み立て、アメリカに売って生計を立てていた。この前提はプラザ合意によって崩され「失われた30年」のきっかけになっている。
ただし過去の蓄積は残っている。本来ならばアメリカに蓄積されている日本も儲けを国内に還流させる措置が必要だったが、日本政府はそれに気が付かなかった。経済の大きな流れがバイパスのように地方を素通りする中で国内経済は過疎化してゆく。その過疎化した経済に追い打ちをかけるように消費税やガソリン課税などの重い負担を背負わせたのが今の日本経済である。
これまでは二大政党制の弊害があり与党のみが財源について責任を持ち野党は追求だけしていればよかった。ところが石破総理大臣が総理の椅子にしがみつくことで思わぬ効果が生まれている。
野党も減税か給付かの協議に参加することになりそうだ。野田佳彦氏から「迫られる形」だが石破総理にとっては渡りに船である。財源に対する責任を野党にも負わせる事ができる。また「政治とカネ」の問題も立憲民主党と協議する。立憲民主党に圧力をかけると主張しつつ企業に頼っている派閥を潰すことができる。
ここで最終的に「国債」を選択するのは構わないと思う。フリーランチはないので何らかの形で国民が負担することになる。重要なのはその議論に野党がコミットしているという点。
アベノミクスにはこのプロセスがなかった。
安倍総理は事実上の財政ファイナンスを実施し国内の構造改革を行わなかった。その結果として今の日本銀行は利上げができない。ドルと円の間に金利差が生まれ円の価値が下がった。とはいえ国内には製造業が残っていないため円安のメリットはない。輸入価格の高騰による物価高だけが起きている。さらに物価高が起きると家計から政府に富の移転が起きる。これらをあわせて「インフレ税」と言っている。
つまり、現在我々はアベノミクスの「フリーランチ代」を支払わされている状況といえるのだが、党内での政治闘争につながりかねないため自民党はアベノミクスの総括ができていない。
ただ安倍政権時代は自民党が強かったのでこうした議論は(行われはしたが)ほとんど無視されてきた。安倍総理が意味不明の経済理論を一方的にまくしたてて「議論」は終わっていたのだ。
石破総理は安倍政権の総括には失敗したが、市場の審判を受けている。
非常に興味深いことに石破おろしを画策しているのは清和会などの「政治とカネ」勢力である。萩生田光一氏に至っては秘書の略式起訴が決まりそうな情勢。
その意味ではTBSの世論調査は極めて重要だ。石破総理に期待が持てないから自民党に投票しなかったという人よりも自民党に期待が持てないから投票しなかったという人が多い。さらに石破総理が退陣する必要がないと考える人のほうが(わずかながら)多い。一般世論は「政治とカネ」を反省しない旧派閥にこそ苛立っている。
そもそも石破総理は総裁を辞めたからといって総理大臣を降りる必要はない。憲法のどこを見てもそんな規定はないのだ。石破総理は自民党内の保守派を捨てて野党と一緒に新しい経済政策の実現に向けた話し合いを行うという選択肢を得つつある。そしてこの枠組みは同時に野党をも縛ることになる。
つまり、民意に従えば石破総理は党内の保守派と刺し違えつつ「もはや出口などどこにもない」ことを野党と一緒に追求すればいい。
ということで石破総理は極めて強気になっており何らかの形で80周年談話を出したいと意欲を示したそうである。
小泉首相は自民党をぶっ潰すと言いながら自民党を延命させた。石破総理は何も言っていないが実際には自民党を破壊しつつある。
さらに石破総理は自らの手で地方を破壊するかもしれない。ガソリン税率を改定すれば地方はインフラ整備の財源を失う。また地方の賃金上昇によって潰れる地方企業も出てくるだろう。自民党の支持母体は盛んに「財政手当」を求めているが、自民党の次の選挙のことさえ考えなければ有権者が望む「負担の軽減」を優先し地方の構造を破壊することが可能だ。いずれぬせよ、石破総理が解散さえしなければ選挙は当分行われない。
