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パウエル議長解任騒ぎで市場が動揺

8〜12分

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トランプ大統領はこのところFRBのパウエル議長に対して金利を引き下げるように迫っている。パウエル議長は「関税問題がなければすでに金利を下げていただろう」してすぐさま応じるつもりはないようだ。

そんななかホワイトハウスの高官が「パウエル解任」をほのめかす発言を行い市場は大きく動揺した。トランプ大統領がすぐさま火消しに走りなんとか動揺は収まったが火種は残ったままである。

市場の騒ぎでトランプ大統領もパウエル解任が極めて難しいと改めて学習したのではないか。冷静に考えると大統領にFRB議長を解任する権限はないようなのでそもそも一体何の騒ぎなのだという気もする。

昭和時代、デール・カーネギーのセールスマニュアル「人を動かす」がマーケティングの教科書として一世を風靡した。他人に共感をよせることで相手に影響を与えれば商品を買ってもらえるというような内容。

トランプ大統領はこうした共感戦略が極めて苦手でやたらに恫喝に頼る傾向がある。関税問題を通じて日本でもおなじみになったのではないだろうか。日本は市場を開放しないであろうとの見通しを示し参議院選挙で苦戦する石破総理に揺さぶりをかけている。

トランプ大統領は金利さえ下がればアメリカは好景気になり自分の人気が更に高まるであろうと考えている。パウエル氏が贅沢なFRB建て替えを主導しているといいがかりをつけて解任するのではないかと言われていた。

おそらくトランプ大統領にとってパウエル解任は揺さぶりであって本気ではないのだろう。そもそも解任に法的根拠がない。だがこの解任恫喝騒ぎが市場を大きく動揺させることになった。

Axiosによると今回の解任騒ぎには2つのきっかけがあった。1つは共和党で高まるパウエル解任論。これはニューヨーク・タイムズが伝えているそうだ。この下地がありBloombergが「近々トランプ大統領が重大発表をする」という匿名高官の発言を伝えたことで激震が走りドルが売られ円が急騰する騒ぎが起きたようだ。

この騒ぎは1時間ほどしか続かなかった。報道に慌てたトランプ大統領自身が解任はないと火消しに走ったからだ。パウエル解任で何が起きるのかをトランプ大統領は身を持って学んだのではないか。

ただ、大統領がパウエル議長に対する圧力を弱めることはなさそうだ。この否定発言の後も「まだ正式決定ではない」との観測が出ている。

Bloombergは円の乱高下とともに国債金利のスティープ化について触れている。短期金利は極端に低下するものの長期金利が高止まりしているということになる。長期的には財政悪化懸念がありアメリカの国債は徐々に信頼を失いつつある。

日本はそもそも金利が低くヨーロッパも金利を引き下げている。このためアメリカは金利引下げ競争に逃げ遅れた形。皮肉なことにこれがアメリカの投資環境を魅力的なものにしている。

アメリカドルを買っておけば高い利回りが期待できる。しかし一方でこの高金利はアメリカ国民に物価高をもたらす。特にこれから住宅を買いたい人やクレジットカードで自転車操業的に消費を繰り返している人たちにとっては重荷だ。

トランプ大統領は世界中に投資を呼びかけつつ国内では金利引下げとインフレの克服を約束しているが、この約束は両立しない。今のところ消費者よりも投資家を優先しているためこのままでは既存の支持者たちに離反されかねない。

さらにトランプ政権の足元ではエプスタイン・ファイル問題もくすぶっている。トランプ大統領はパム・ボンディ司法長官になんとかしろと圧力をかけているがこれまでの支持者たちに対しても「民主党に加担している」と攻撃を加えている。

記者は最後に「ファイルが公開されないのはあなた(トランプ大統領)が名簿に載っているからではないか」と突きつけたそうだ。

アメリカ合衆国は新自由主義の実験場になりつつある。試験管の中には大勢の市民が暮らしている。