政治・経済・外交の話題は別の情報チャネルで語られることが多い。政治のコンテクストでは右傾化が語られているが経済のチャネルでは「国債の価格がじわじわと上がっている」と伝えられている。しかし、政治を見ている人たちは意外と状況に気がついていないかもしれない。
TBS CROSS DIGは「すでに景気後退入りしている可能性」まで示唆している。
Bloombergが日本国債に「トラスショック」懸念、参院選後の財政リスクに市場動揺と伝えている。
TBS CROSS DIGでもこの話題に触れられている。このところ市場は金利上昇の話題で持ちきりですよねなどと語られていた。
結果的に長期金利はリーマンショック以来の水準となった。背景にあるのは選挙情勢の悪化だ。政局が不安定化すると「一時減税」にせよ「給付」にせよ財政拡張的な政策が語られるようになる。この状況がトラスショックに似ているというわけだ。
ブレグジットに失敗したイギリスではジョンソン首相が退陣を余儀なくされた。金融界を代表するスナク氏は「プラダの靴を履いて視察」と反発されポピュリスト色が強かったトラス氏が保守党員の票を集めて躍進する。しかしトラス新首相の経済政策は金融界に激しく反発され通貨・債権・株式のトリプル安を招いた。さらにスナク氏も首相の座を維持できず後に政権交代が起きている。
つまり末期の政党が有権者の気持ちを繋ぎ止めようとして財政拡大し金融市場から反発されるのではないかということ。
ただこのTBS CROSS DIGのコンテンツを見て「いやいや問題はそこではないだろう」と考えた人はいるだろう。見出しにある「とっくに景気後退」はどうなっているのだ?ということだ。
このプレゼンテーションは日本が「ゼロ近傍」でテクニカルリッセッション入りする可能性を指摘。さらに細かく経済指標をみると実質的には景気後退局面に入っているのではないかと指摘している。
非常に興味深い。
麻生政権成立の過程をおさらいしてみよう。
福田総理の「あなたとは違うんです」発言が2008年9月1日。福田総理は自分では選挙に勝てないと判断したようだ。この後の2008年9月15日にリーマン・ブラザーズが破綻し日本は未曾有の経済混乱に巻きこまれる。麻生政権はその後2008年9月24日に発足。
選挙に負けるのではないかと焦りを募らせる党内はまとまらず経済政策を打ち出せないばかりか選挙さえ出来なかった。麻生総理は浮揚のきっかけを掴めず選挙に突入した結果2009年8月30日投開票で惨敗。2009年9月16日に内閣は総辞職している。
すでに経済状況が悪化していたとしても有権者がそれに気が付かなければ騒ぎにならない。リーマンショックは麻生総理が引き起こしたものではないが有権者はそれを結びつけた。同じことは東日本大震災でも起きている。民主党が地震を引き起こしたわけではないがこのときの混乱は民主党のせいにされている。
アメリカの関税交渉が行き詰まりを見せている。自民党の有力者たちはおそらく火中の栗を拾いたくない。選挙結果次第だが総裁にはなれても総理大臣になれない可能性があり次の首班はホワイトハウス送りだ。事情は野党指導者も同じ。石破総理は関税交渉ができていないと声高に主張すれば主張するほどその発言が巨大ブーメランになって後頭部を直撃するのは火を見るより明らか。さらにすでに景気後退が起きていると考えると首相のポジションはもはや罰ゲーム以外の何物でもない。
ここは自民党に落胆した人たちの不満の受け皿を自民党に取り込むのが一番手っ取り早い。皿ごと毒を食ってしまう可能性も高いが考えている時間はない。これがもっともお手軽かつ安易な「大団円」なのである。
ただし次の政権(石破政権かもしれないしそうではないかもしれない)は「景気後退」の戦犯として批判される可能性が極めて高い。有権者は因果関係を整理せず景気後退が顕在化して初めてそれをその時の政権に結びつけその政権を攻撃するのではないか。この時「国民に問題があった」などと反省する有権者はいない。
