トランプ大統領がゼレンスキー大統領に対して「ウクライナはモスクワ攻撃は可能か」と質問した。フィナンシャル・タイムズが報道しBloombergがこれを受けている。ABCニュースもホワイトハウスに取材したしかにそういうやり取りがあったと確認しているそうだ。ホワイトハウスは「攻撃しろと言ったわけではない」と釈明している。最新記事では「モスクワを攻撃すべきではない」と主張している。
この発言はトランプ大統領がプーチン大統領に失望しロシアに対する攻撃姿勢に転じたものと解釈された。ただBBCはトランプ大統領は未だにプーチン大統領を見限っていないとする発言を伝えている。まだプーチン大統領に未練があるようだ。結果的に記者たちの質問に対して「モスクワを攻撃すべきではない」と説明したようだ。
そもそもトランプ大統領の発言は不安定なので一つひとつの発言について一喜一憂してもなんの意味もないとわかる。
だた背景にある態度は一貫している。トランプ大統領の普段からの言動を聞いているとエスタブリッシュメントに対する反発心を感じる。教養とシュッとした格好良さに対する根深い反発がある。
アメリカ合衆国もヨーロッパも教養が重要視される社会だがトランプ大統領の普段の言動を見ているとどうやら聖書やシェークスピアなどをまともに読んだことがなさそうである。企業も重役クラスになると英語が話せるだけではダメで外国人であってもスラスラとシェークスピアが引用できなければならない。極めて排他的な社会だ。
さらに政治の世界ではルックスも重要視される。トランプ氏は美人のメラニア夫人をトロフィーワイフとして常に携えている。過去には数々のセックス・スキャンダルがあった。女性にモテることで自分の価値を自分自身に納得させようとしているという飽くなき承認欲求を感じる。
このコンプレックスをうまく利用したのがイギリスだ。トランプ大統領に恭しく国王からの手紙を渡し「これは特別なことなんですよ」と記者たちに説明した。トランプ大統領の承認欲求を満たしてやったのである。この国賓待遇での訪問は9月中旬に決まったようだ。
ルッテNATO事務総長もオランダ王室の協力を得ている。
トランプ大統領はトルドーカナダ首相やオバマ大統領のような格好の良い政治指導者に激しい憎しみを抱いている。また人権第一主義を掲げるバイデン大統領やヨーロッパの首脳も嫌い。しかしこれはイデオロギーの反発というよりはコンプレックスに由来すると考えたほうが良さそうだ。自分は特別な存在だと言う自意識がありながら周囲から承認されていないと言う気持ちがある。このためロイヤルカードが外交上有効になってくる。
トランプ大統領は「意識高い系エスタブリッシュメント」に対する挑戦者としてプーチン大統領に深いシンパシーを感じているのではないかと思う。
だが残念なことにプーチン大統領はトランプ大統領を単に利用しがいがある相手程度にしか思っていなかった。プーチン大統領はウクライナという存在を地上から消し去るまでは決して挑戦をやめないだろう。彼のルサンチマンは東ドイツ市民たちに追い出されたところまで遡る。ロシアでも体制転換を経験しタクシー運転手として生計を立てていた時代がある。プーチン大統領は民主主義を恨んでいる。
トランプ大統領も頭ではこの事に気が付きつつあるがどうも気持ちの上での整理がついていないようだ。アメリカ合衆国の兵器でモスクワを攻撃すると言う極端な可能性も感じながら「見限ったわけではない」と気持ちの整理ができていない。さらに騒ぎが大きくなると「モスクワを攻撃城などと言っていない」と動揺した。
市場はトランプ大統領はロシアに対する大規模制裁に踏み切れなかったとみなしたようである。Bloombergは原油続落、トランプ氏の対ロシア圧力は供給に直ちに影響せずとの見方との見出しを打っている。
ただトランプ大統領の意図とは別のところで周囲がロシアに対する攻撃をお膳立てしてしまう可能性は残されている。イスラエルのネタニヤフ首相がアメリカ合衆国をイラン攻撃に駆り立てたのに似ている。
ただしこの攻撃も極めて中途半端に終わっている。イランの核兵器開発や行方不明になった可能性がある濃縮ウランについても続報はない。
