TBSの報道特集は独りよがりの内容でほぼ炎上と言って良い状況になった。TBSはきちんとSNSを観察していたようで素早い軌道修正を見せている。
Nスタの井上貴博キャスターは「我々は情報を提供し、選ぶのはあなたです」として外国人問題の統計を扱っていた。視聴者を信頼する姿勢を見せることは大切だ。
今回の参議院選挙は右傾化が進んでいると言われている。特に参政党が警戒されており「排外主義」とのラベル貼り報道が行われていた。ただし参政党はメディア戦略が非常に上手な政党なのでこれを逆手に取り「メディアが参政党を虐めている」というイメージ作りに利用している。
被害者意識を利用する政党は少なくない。今回の参議院選挙では、かわいらしい小動物のようなつぶらなひとみで「私は偏向報道に殺されかけました」と主張するある党の党首のポスターが目を引く。頭には包帯が巻かれている。
ただし、参政党はある程度組織化に成功しており「話題提供型焼畑政党」からは離脱した。田崎史郎氏はポスターの充実ぶりに着目していた。
闇雲な政党批判や決めつけは危険だ。ではなぜ危険なのか。順を追ってみてゆこう。
第一の理由はSNSを見るとよく分かる。Quoraの政治フォーラムのフォロワーは9000人を超えた。参議院議員選挙を前に政治に対する関心が高まっているようだ。しかしながら普段コメントをくれるのは穏健派とアメリカ事情に詳しい(したがって英語に苦労しない)人たちだけだ。
今回TBSに関する話題を扱ったところ珍しくコメントが多数ついた。中にTBSに対する批判を展開している一群がいる。普段はコメントつけない人たちだ。彼らにはいくつかの特徴がある。
まず最初の語り口が冷笑的で攻撃的だ。次に扱う内容が極めて細かい。気に入らない事例をいくつもあげつらっている。彼らは単なる受益者に留め置かれており眼の前の情報空間から阻害されている。
彼らの最大の特徴は「同じような人々が集まるところでないと意見表明をしない」という点にある。これは日本人の特徴だと思う。同調圧力が極めて高い社会なので少数者と見られることを極端に嫌うのだ。れいわ新選組が成功せず参政党が成功したのはそのためだ。少数者とは見られたくないのである。
今回もお互いに「同感です!」などと承認し合うことで自分たちは少数派ではないことを確認している。
ただこれは日本人一般の対応とは言えない。
同じ意見を表明する場合でもまず共感を示したうえで「この点については同意しかねます」と言ってくる人はいる。管理された人々と自分の意見を組み立てることができる人が二極化しているのである
日本の高校は学力レベルによって決まる。高い学力持っている学生は「自分の言葉」で説明する訓練を受ける可能性も高い。しかし、そうでない学生は「管理される対象」となりこうした訓練が受けられない。
日本の高校に進学したアメリカ育ちの高校生が「アメリカの教育はアウトプット型」で「日本はインプットが充実している」と説明している。アメリカから見ると羨ましく見えるようだが、どちらもバランスが取れていないと考えることができる。いずれにせよ日本で「自分の気持ちを表明できる」というのは一種の特殊技能なのである。
この手の社会的訓練は交通マナーのような役割を果たす。社会訓練を受けられない人はいつまでも路上教習に進めない。したがって意見表明が出来ず意見表明をする人々を「何を偉そうに」と恨むことになる。考えをまとめるのはマネージャークラスで労働者階級は単に指示に従っていればいい。こうした分極化は何も日本だけの現象ではない。アメリカにもこのような状況は存在する。おそらくはこれがトランプ政権誕生の背景にある現象だ。
メディアはそもそもスラスラと意見表明ができる人たちのショーケースだが、これはものを言えない彼らにとっては嫌味なひけらかしに過ぎない。
普段の彼らは社会的な影響がない。社自分たちで意見も組み立てられないので対象物ができてはじめて意見表明が生まれる。今回はTBSの山本恵里伽アナウンサーが標的になっており国会招致や不買運動を求める候補者まで出てきたようだ。
問題になるのは彼らが組織化されたときであろう。
参政党の党首のインタビューを聞くと「中には過激なことを言う人もいますが選挙期間中は強い言葉で惹きつけなければいけないので」と穏やかに説明している。党首自身は社会的スキルが極めて高くそうでない人たちを代表していることがわかる。
更に付け加えるならば「意見表明が出来ない人を取りまとめた」ことでトランプ大統領が躍進したことがモデルになっているのではないかと思う。オバマ大統領のYes We Canの影響で民主党政権ができたときに似ている。アメリカの現象が日本流にアレンジされると爆発的に広がることがある。
ただ「(テレビに映る)参政党の現場」を見ると惹きつけられている人の中にはかなり高齢者や中高年が混じっているようだ。これは兵庫県知事選挙に似ている。
ある程度の塊が作られるとメッセージが浸透するとうっすらとした違和感を帯びた人たちを惹きつけることがある。テレビの影響で現場に出かけた人たちが「テレビで見ているのと違う現象」を見る。そこでうっすらとしたテレビに対する不信感が「確信」に変わってしまうのだ。
TBSの情勢調査では都市部の複数区で参政党が第三政党として躍進しているということだ。すでにかなり浸透が進んでいることがうかがえる。テレビで危険視されていると見に行ったら「実は意外といい人そうだった」というのはもはや選挙運動に協力していると言っても過言ではない。
おそらく自民党にとって一番簡単なのは離反した人たちをそのまま掬い取って小屋に戻すことだろう。共和党がMAGAを取り込んで大きく変質したように、反安倍でリベラル化した自民党も参政党を組み入れて急激な右派シフトを起こすのかもしれない。今は頭の体操レベルの現実味のない話だが片隅に入れておくとよいだろう。
