Bloombergがトランプドクトリンの特徴について書いている。これを裏付けるような事例を紹介しつつトランプ大統領が自由主義を破壊している様子を観察する。
日本にとっては地震に近い現象なので本来は参議院選挙で最優先で語られるべき問題だがあまりにも変化が大きすぎる。このため、日本の政治家も有権者もメディアも思考停止に陥っているようだ。
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トランプ大統領は国力を損なう恐れが大きい
Bloombergのあるコラムはトランプ大統領の特性について次のように述べている。
- 戦略性が乏しい
- 敵味方の区別が曖昧で力を向けるべき方向性を間違えることが多い
- 結果としてトランプ大統領は国力を損なう恐れが大きい。
そのうえで、トランプ大統領は力の行使に快感を覚えているがその源泉を十分に理解していないと結論付けている。
日本にとっては地面が割れるような大きな変化が起きている
日本の繁栄はアメリカ合衆国に依存しているためアメリカの国力が損なわれれば日本にとっては大災害になる。これをどう防ぐのかあるいはどう脱却するのかがテーマになるはずだが参議院選挙にこのような視点はない。議員はヘラヘラと笑いながら「能登の地震はラッキーだった」と語り、減税か給付かが争点となり、政権選択そのものが至上命題のように語られ、国民集権の放棄を提唱する政党に人気が集まる。
ウクライナに対する発言が二転三転
このトランプドクトリンを示す証拠を見つけるのは特に難しくない。
まず、ウクライナに対する発言を見てゆこう。敵味方の区別が曖昧なトランプ大統領はプーチン大統領に接近し同盟国とウクライナを恫喝した。ところがプーチン大統領が本心では戦争を止めるつもりがないと遅ればせながら気が付いてしまった。
どうしていいかわからなくなったトランプ大統領は「なぜウクライナに対する支援を止めるのか」と聞かれ「私は知らない」としてヘグセス国防長官に丸投げしたそうだ。ABCニュースが二転三転する発言を詳細に伝えている。
プーチン大統領はアメリカはウクライナ支援に本気ではないと見抜いてしまいウクライナに過去最大規模の攻撃を続けている。
トランプ大統領は敵味方の区別が曖昧で長期的な戦略を持たない。意識のスコープはおそらくXの投稿並みの時間しかもたないのだろう。
一方でプーチン大統領は戦略的にウクライナを攻撃している。トランプ大統領ではプーチン大統領に太刀打ちができない。
関税による内政干渉
石破総理さえついに「舐められてはいけない」と発言
トランプ大統領は日本を「その他」扱いにした。また石破総理の名前も認識しておらずMr. Japanと表現している。参議院選挙でメンツを潰された形となった石破総理もついに「舐められてはいけない」と発言せざるを得なくなっている。野党からの反発も大きいが金融市場からもここまで軽視されても何も言い返せないかと呆れられている。韓国にも防衛費を支払えと迫っておりトランプ大統領はおそらく同盟の意味がよくわかっていないのだろう。
ブラジルに対して50%の関税 理由は司法介入
トランプ大統領はボルソナロ前大統領に肩入れするトランプ大統領がブラジルに50%の関税を課して衝撃が走っている。これは明らかな内政干渉であり関税の建前を完全に逸脱している。
国内的には関税は安全保障の観点から重要だと説明されている。さらにWTO体制に対する重大な挑戦だ。WTOは現在統治不能情況に陥っているためアメリカの行動に対する制裁は行われないだろう。
だが、自由貿易を推進する国々はアメリカ合衆国を信頼しなくなるはずである。むしろ中国が自由貿易推進国として躍進しており日本にとっては悪夢のような情況が生まれている。
そもそも当初の目的が崩壊
関税構想の起源はミラン論文だったと言われている。アメリカ合衆国の貿易不均衡はアメリカ合衆国に対して不利なので最終的に通貨を切り下げたい。つまり目的は通貨の切り下げでありその手段の一つが関税だという筋立てになっていた。
第一生命経済研究所の熊野英生氏は「いずれアメリカが通貨協定を持ちかけてくる」としたうえで、通貨切り下げはアメリカのためにならないだろうと分析している。
ところが今のところ通貨切り下げの話は出てきていない。
おそらくトランプ大統領は「関税が恫喝に使える」という点までは理解したのだろうがそれ以上の難しいことは理解できなかったのだろう。また、時間軸が極端に短く「戦略」が保持できない。ワーキングメモリが極端に小さいのだろう。
教養がなく信頼が勝ち取れないトランプ大統領
大統領はおそらく聖書もシェークスピアも読んでいない
最後の問題は教養のなさだ。トランプ大統領は明らかにエスタブリッシュメントに反感を持っている。ヨーロッパは階級社会でありアメリカも知識階級社会だ。教養の無さは出自の貧しさに直結してしまいインナーサークルに入れない。この被害者意識を一部の国民と共有していたため選挙戦を有利に戦うことが出来た。
先日「シャイロック」を引き合いに出したがこれがユダヤ人のステレオタイプだということは知らなかったようだ。欧米社会の教養の基礎が身についていないのだ。
英語圏の国の大統領に「英語がお上手ですね」
今回はリベリアの大統領に対して「英語がお上手ですね」と発言した。リベリアはアメリカの解放奴隷が建国した国なのでアメリカアクセントの影響がある。おそらくトランプ大統領はその歴史を知らなかったのだろう。さらに他の人達の英語はひどいと重ねてみせたそうである。
このようにトランプ大統領はアメリカの力の源泉を破壊し続けているのだが意図して破壊活動を行っているというわけではなさそうだ。本人に自覚がないのだから説得することも改心させることも出来ない。そもそも関税交渉などできるはずもなかったし「舐められては困る」などと言っても無駄というものだ。
トランプ大統領の迷走の基礎にあるアメリカ市民社会の混乱
トランプ大統領が混乱しているだけなのであれば大統領の任期だけ我慢すれば良いということになる。ところがどうもそうなりそうにない。
先日ご紹介したエプスタインファイルが未だに騒ぎになっている。性的人身売買に関与したとされるエプスタイン氏は獄死した。陰謀論者たちはこれを「民主党による隠蔽である」と囃し立てトランプ候補(当時)もこれに乗っていた。支持者たちは未だにこの陰謀を信じており司法長官が民主党をかばっているから罷免しなければならないと騒ぎ続けているそうである。
もちろん国力の低下を懸念している国民も大勢いるのだが一体今目の前で何が起きているのかが理解出来ない人たちも多くいるのである。
