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意外と好戦的なドイツのメルツ新首相

9〜14分

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G7サミットではトランプ大統領の迷走ぶりが目立っている。このためバイデン政権時代の構図をそのまま持ち込み「偽善者VSトランプ大統領」という図式を作りたくなるのだが、G7の構図は変化しつつある。

まず民主党支持者や平和主義者から攻撃されそうな「偽善者」について処理しておきたい。ここでいう偽善者とは既得権を守る行動に「人権・自由・民主主義」といった意識高い系のシュガーコートを施すひとたちのことだ。

もちろん理想主義そのものが悪いわけではない。問題はすでに彼らが理想主義を追求するだけの力を備えているわけではないという点にある。つまり理想を掲げはするものの何もできないのだ。

個人的にも核兵器はいけないものだと思う。だが核兵器廃絶だけを訴えて核兵器を取り上げたウクライナが今どんな目にあっているかを考えると「安易な核廃絶」の危険性も十分に認識できる。

ヨーロッパの左派系知識人の間にはこうした認識が広がっている。何回かご紹介したエマニュエル・トッド氏はアメリカも「ヨーロッパもロシアに敗戦している」などと主張している。ロシアを仲間に入れようとせず尊大な態度を取り続けた結果軍事力で圧倒されつつある。

今回のG7サミットの前の首脳の発言を細かく拾うとヨーロッパの首脳の態度が見えてくる。

  • ロシア・ウクライナ問題においてはロシアの台頭を恐れている。核兵器を背景にロシアから恫喝されたくないと考えているのだろう。このためアメリカを除いた各国はウクライナを支援し続けている。
  • 一方でイスラエル・ガザ問題では難民がヨーロッパに押し寄せるのを阻止したいと考えている。このためパレスチナ国家承認を推進しガザの住民をパレスチナに押し留めようとしてきた。
  • しかしイスラエル・イラン問題では、イランが核兵器を開発し国際的な発言力を増すことを恐れている。またロシアがイスラエル・イランの和平交渉に前向きであり、アメリカのトランプ大統領も前向きだった。これも好ましいとは考えていない。

このためイスラエルに対するヨーロッパの対応はチグハグなものになっている。ガザ問題においてはイスラエルを責めているがイラン問題においてはイスラエルの自衛権を支援しイランを非難している。

確かに国益を考えて是々非々で対応しているのだとは評価できる。しかし「人道主義」「平和主義」の観点から見れば一貫性は何一つ感じられない。

G7サミットの声明はこのヨーロッパの矛盾に満ちた対応を反映したものだ。イスラエルの主権を擁護し、イランを批判している。しかしガザ問題ではイスラエルに自制を呼びかけてもいる。

ここからヨーロッパがバイデン大統領のような偽善者チームにいると思いたくなる。

ところがメルツ首相の態度がどうも変なのだ。

アメリカのメディアは余り注目していないがドイチェ・ヴェレタイムズ・オブ・イスラエルアルジャジーラなどがメルツ首相のZDFのインタビューに注目している。メルツ首相は「イランの核兵器開発を止めることは可能だ」と発言している。メルツ首相はアメリカ合衆国がイランに攻撃を加えるという「真の解決策」を打ち出せばいいと主張する。

メルツ首相は「イスラエルは汚れ仕事をしているだけだ」とイスラエルの行動を最大限に援護している。つまり本来ならばヨーロッパも加わってイランを攻撃すべきだができないから代わりにイスラエルがやってくれているのだという意味になる。

メルツ首相はドイツ国内で極右と協力した移民政策を推進し、ウクライナへのミサイル支援には限界はないと示唆していた。「自分は矢面に立たず誰かに面倒なことをやらせたがる」傾向が一貫している。

面倒を避けたいと言う気持ちはヨーロッパもカナダも同じだ。しかし、マクロン大統領は外交第一主義者。メローニ首相は目立った行動は避け関係先に盛んに接触し様子をうかがっている。

G7サミットは関税の個別交渉の舞台であると同時に、ヨーロッパがアメリカ合衆国を引き込むための舞台として設定されていた。トランプ大統領のG7逃亡の背景には実はヨーロッパがアメリカを利用し続けてきたと言う事情も隠されているのかもしれない。

マクロン大統領はアメリカがイランに軍事行動を取ることを「最大の過ち」と反対し続けており、メルツ首相とは立ち位置が違っている。先程のNSCが終わったがトランプ大統領は引き続き何らかの軍事行動に前のめりになっているようだ。バンカーバスターを使ってイランの核兵器開発能力を完全に除去できるかなどについて議論がかわされたものと見られている。REUTERSは米軍機が引き続き周辺空域に展開しているとしており予断を許さない状況が続いている。

実際にはロシアのプーチン大統領がこの問題に介入したがっており方程式は更に複雑なものになっている。これが世界がきれいに2つの陣営に別れていた第一次世界大戦と第二次世界大戦との違いである。それぞれの状況が微妙に干渉しあいまさにカオスと言って良い状況を作り出しているのだ。

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