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トランプ大統領の「鎮圧している風」戦略

9〜14分

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ロスアンゼルスの暴動について日本ではピリッとしない報道が続いている。Quoraでは中国で起きた出来事であれば盛んに批判されていただろうというコメントが付いた。香港の民主化運動の際には大規模な中国共産党バッシングがおきた。今でもその不満を引きずっているのだ。

日本人は安全保障をアメリカにフリー・ライドしているという気持ちがあり今回起きている出来事に対する分析を自己抑制しているが、徐々に今回の「鎮圧」がプロレスやリアリティショー的な劇場政治の一環であるとわかってきた。CNNが「鎮圧している風」と論評している。

アメリカ合衆国の民主主義はある種の崩壊過程にある。持続可能でない構造がついに瓦解を始めたといえるだろう。

CNNが「【分析】LAの抗議デモを軍の力で鎮圧したいトランプ氏、鎮圧している「風」でも構わなそう」という記事を書いている。徐々に「暴動」がどのように始まりどう管理されているかがわかってきた。

日本人の中にもアメリカに対する依存心が強い人はいるだろう。不安になると思うのでここから先は読まなくていいと思う。

ABCが経緯をまとめている。

まずダウンタウン地区に隣接するウェストレイクのホーム・デポなど複数地点でICEの一斉摘発が行われた。この噂が遠く離れたパラマウント(広域ロスアンゼルスは関東平野ほどの広がりがある)に伝わり「なぜか」暴動に発展した。この暴動が起きたのが朝の10時だそうだが、トランプ大統領は6時には州兵の連邦化を行った。今回の暴動が噂だったという報告はBBCからも上がっている。

トランプ大統領の意思決定は極めて早かった。何らかのシナリオを事前に準備していた可能性も高いといえるだろう。

その後も暴動は管理された状態が続いておりダウンタウンの狭い地域にとどまっている。また州兵は鎮圧には参加しない。最後の一線である「反乱法」が適用されていないからだ。つまり州兵がいなくても状況はコントロールできているということになる。と同時にトランプ大統領が派遣した州兵が偶発的にトラブルに巻き込まれないような管理体制も敷かれている。

実によく出来ているのだ。

高速道路が占拠され自動運転車に火がつけられている。現場ではメキシコ国旗などが翻っており「ロスアンゼルスでものすごく大きな問題が起きている」という印象が全米に報道されている。

民主党は今回の暴動と1月6日の議会襲撃では何が違うのか?と主張しているが、政府はこれに対する明確な答えを準備している。トランプ大統領が大好きなプロレスから学び「同じ暴力と言ってもアメリカを守る正義の暴力と反アメリカの悪の暴力がある」というのだ。

つまり、今回の一件を動見るかは別にして、シナリオが入念に組み立てられた「管理された暴動」となっている。劇場型政治と表現してもいいしリアリティショーとプロレスをまぜこぜにしたものだと分析することもできる。

皮肉なことに燃料になっているのは「表現の自由が守られる国アメリカ合衆国」の崩壊である。CNNは「中国やロシアは民主主義の混乱であると政治宣伝に利用するだろう」としている。また国内にすでに氾濫している陰謀論に更に火を注ぐ可能性もある。

そもそも世界各地にジャーナリストを狙い撃ちするアメリカ合衆国という評価が広く拡散している。

民主党は対応に苦慮している。すでにICEに抗議した民主党の議員が起訴されている。トランプ政権は次回の大統領選挙の有力候補とみなされるニューサム知事を逮捕したくてウズウズしていることだろう。しかし民主党は有権者が徹底抗戦を支持してくれるか見通せないでいる。かつて民主党を支持してきた中流層の生活は傷んでおり支持者たちは明確な変化を求めているのだ。自分の生活が苦しいのに他者の人権を守れと言われても困ると考える人も多いのではないか。

トランプ大統領は6月14日の生誕祭を軍事パレードで盛り上げようとしており「アメリカを守る戦い」はしばらく続きそうだ。

ではトランプ大統領はこの戦いに勝利を収めようとしているのか。むしろ逆だろう。トランプ大統領は追い詰められている。

実はトランプ大統領が勝てるのは仕組まれた試合だけである。関税交渉で中国はアメリカ合衆国の喉に手をかけ「このまま力を入れたらあんたはあの世ゆきだよ」と脅した。

ジスプロシウムやテルビウムといったレアアースの供給が滞り、自動車や防衛関連など広範な分野に影響が拡大。米国のみならず、他の国・地域も早々に対応能力の限界に直面した。フォード・モーターやスズキは一部生産を停止し、テスラのイーロン・マスク氏はロボット事業に支障が出ていると発言。各国政府は中国以外の供給元の確保に奔走し、米中間の貿易摩擦は世界規模の危機へと発展した。

中国が突く米国の急所、レアアースで交渉優位に-世界の供給網揺らす(Bloomberg)

結果的にアメリカ合衆国は状況を悟り関税協議がまとまりつつある。習近平国家主席とトランプ大統領に「ご報告」が上がり最終承認されることになっている。

レアアースというカードで習近平国家主席が何をもぎ取ったのかというのが「発表」の焦点だが、あくまでも表向きはトランプ大統領がディールを勝ち取ったいう演出がなされるだろう。

すでに取るものを取ってしまった習近平国家主席はこれを余裕の表情で眺めている。

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