BBCが今回の一連の州兵派遣のきっかけについての記事を出している。州兵派遣のきっかけになった出来事が「フェイク」でありトランプ大統領の根拠が「政府の反乱」だったことがわかる。ちなみにBBCはイギリスのメディアである。アメリカ合衆国のメディアを引用できないという点に深刻さがある。
州兵というからには州知事が指揮命令するのではないかと感じた人がいるようだ。BBCが大統領が州兵を派遣する根拠について書いている。「ある法律」によれば下記の条件のうちいずれかに当てはまれば州知事を連邦の指揮下に置くことができる。今回は2に該当するというのが大統領の主張である。
- 外国の侵略(またはその危険)
- 政府に対する反乱(またはその危険)
- 大統領が通常当局によって合衆国の法律を執行できない
では今回の暴動のきっかけは何だったのか。これもBBCが書いている。実は一斉検挙の噂がきっかけになったそうだ。
ただしトランプ政権はこの手の暴動が起きることを待ち望んでいた可能性がある。暴動が起きてからの立ち上がりが極めて迅速だった。
ここまでがBBCの整理である。
今回の事件はトランプ政権に取って好都合なことが多い。
- 国家的な危機に際して民主党が何もしていないと印象付けることができる。治安維持で頼りになるのはトランプ政権と共和党だ。
- 移民たちが極めて危険な存在であると国内外に印象付けることができる。
カリフォルニア州とロスアンゼルス市は「地元警察が十分に対処できていた」としている。一方で州兵の動員が決まってから対立が激化している。
トランプ大統領は州兵掌握の根拠として「反乱」を使ったが、内乱法を適用するつもりはないようだ。ロスアンゼルスの暴動は反乱=insurrectionではないと言っている。さらに内乱に発展するかはわからないとの認識だ。
Pressed on whether he believes there is an insurrection in California, Trump said, “No, no. But you have violent people, and we are not going to let them get away with it.”
Noem says Guard wouldn’t be needed in LA if Newsom had done his job(ABCニュース)
視聴者は「州兵導入の前と後」を区別しないのだから「なにか危険なことが起きておりトランプ大統領の言い分ももっともだ」と感じるかもしれない。
そもそもBBCの主張が正しければ「デモ隊には抵抗する主体がなかった」ことになる。にも関わらずこれほど抵抗運動が広がるのはどこか変だ。不安を持った人たちを焚き付けるのは簡単だったろうなとは思うが、根拠のない憶測は単なる陰謀論になってしまうため「利益を得る人が焚き付けたのではないか」という論は主要メディアでは伝えられていない。
現地では混乱が広がっており「誰が最初にデモを過激化させたのか」についての報道は出ていない。
誰かが焚き付けたのかあるいは起こるべくして起きたのかはよくわからないのだが、それよりも心配なことがある。アメリカ人の間に漠然と広がる不安である。他人を助けたいと考える人ほどジレンマにさらされることになる。
Quoraで「アメリカのSNSは監視されている」と書いた。これに対して「具体例はあるのか?」という問い合わせが入った。根拠のない陰謀論ではないかと疑われたのだろう。
現在、政府が積極的に監視しているのはアメリカへの長期滞在を希望する外国人とすでにアメリカに入っている外国人のSNSである。しかしながら、これを支援する人たち(大学や法律関係者)のSNSもおそらく監視されている。
外国人に同情的な人々に対して資金援助の打ち切りが検討されており無料で移民をを助けようとする法律家たちも大統領からありとあらゆる手法で嫌がらせを受けている。ある裁判官も移民を匿った罪で逮捕され裁判が行われている。
- Trump attacks on law firms begin to chill pro bono work on causes he doesn’t like(NPR)
- Wisconsin judge arrested and charged in federal court for allegedly obstructing immigration agents(CNN)
そんななか、あるジャーナリストの停職が話題になっている。ABCの名物記者が停職処分になった。SNSでの書き込みが理由だったそうだ。FOXニュースでレビット報道官が処分を要求した1時間後に停職が決まった。アメリカのメディアはこれほどまでにトランプ政権からの報復を恐れているのである。このためBBCを見たほうが現状がよく分かるのだ。
モラン氏は投稿の中で、トランプ氏とミラー氏の「世界級の憎悪」に言及。トランプ氏にとって憎悪は「目標を達成する唯一の手段であり、その目標は自らの栄光をたたえること。それが彼の精神的な糧だ」と書き込んだ。
大統領批判のベテラン記者、トランプ政権に要求されABCニュースが停職処分
一連の見せしめは健全な政権批判を「反アメリカ」言動へと変えてゆく。他人の人権に共感を寄せる人たちほど「自分は反アメリカ的言動を取っているのではないか」と萎縮することになる。
もちろん、アメリカ合衆国で東ドイツのシュタージのような緻密な監視網が市民のSNSを常時監視していると言う事実はない。むしろ何が反アメリカ的と受け取られるのかわからないと言う曖昧な状況が澱のように周囲を覆っており人々を不安にさせている。
すでに連邦政府の敵意はメディアにも向かっておりロスアンゼルスでは複数の報道関係者が「非殺傷弾」で攻撃されている。命が奪われることはないが手術が必要な怪我を負ったジャーナリストもいるそうだ。