鈴木総務会長と森山幹事長がそれぞれ講演で消費税減税はポピュリズムであると野党を攻撃した。
自民党も20000円程度のマイナポイントを給付する案を検討しているとされているため「どっちがポピュリズムなんだ」とは感じたのだが、今回議論したいのはそこではない。
メディアが「自民党幹部」と実名をぼかす彼らはなぜ消費税減税に後ろ向きなのだろうか?
鈴木総務会長の発言は下記の通り。
鈴木氏は、立民が唱える時限的な食料品の消費税ゼロについて「税率を下げるにはどう頑張っても2年かかり、足元の物価高対策にはならない」と反論。国民民主が掲げる「年収の壁」引き上げにも「単に税負担を下げて手取りを増やすのは本当の政策ではない」と指摘した。
「野党はポピュリズム」 鈴木自民総務会長が批判(時事通信)
森山幹事長の発言は下記の通り。
自民党の森山裕幹事長は7日、盛岡市での党会合で、物価高対策として消費税減税を掲げる立憲民主党など野党をけん制した。「財源の裏付けなしに簡単に税率を下げたり、ゼロにしたりするのはあり得ない話だ」と述べた。
消費税ゼロ「あり得ない」 自民幹事長、立民けん制(共同通信)
どちらもとにかく消費税減税議論は口に出してもいけないと党内を牽制している。
すでに先日考察したように自民党は優しい資本主義を掲げこれまで通り地方に分配する政策を続けたがっている。もともと自民党はGHQや財界が日本の共産主義化を防ぐために保守を合同して作った政党だ。当時、今よりもずっと不効率だった地域に浸透するように農家や地域の有力者を束ねる必要があった。この名残が郵便局行政や農政に独特の歪みを与えている。
不効率を前提にした制度なので不効率が再生産される。しかし地方にとって見ればこれは不効率ではなく優しさである。
しかしながら、そもそもこの地方基盤は少子高齢化によって破壊されつつある。
石破総理は農政改革を通じて農協を潰し自民党を支えてくれるような新しい枠組みを作りたい。また、地方の民間企業を巻き込むために新しい会議体を立ち上げる意向を示している。このために訪れた群馬県で「群馬は怖い人が多そうだ」と発言し危うく炎上しかけたが、このままでは自民党の支持基盤が消えてなくなるという危機感を持っているのだろう。
一方で、石破政権は対米関税交渉は完全に行き詰まった。これは石破総理の失策というよりはアメリカの混乱する内政の煽りを受けているといってよいだろう。今回の文章は自民党の事情野党の事情とともにアメリカの事情について整理する。アメリカは今や関税交渉どころではなくなっているが日本の政治報道は国内政局と外交を分けて考えたがる傾向にあり全体像がつかみにくい。
この対米関税交渉の行き詰まりは日本の地方経済を牽引してきた最後の生き残りだった自動車産業の終わりを意味している。アメリカの中間層の怒りがグローバリズムの否定を生み出し、日本や中国の産業構造を大きく変えようとしているが、自民党は次世代の国家像を提示できていない。現状を否定し「交渉し続けている間は失敗していない」と自分たちに言い聞かせている。
赤沢担当大臣によれば協議は進展はしているが次の話し合いがいつになるかはわからないそうだ。
そもそもアメリカの政権と議会の交渉が行き詰る中でベッセント財務長官はそれどころではない状況。パウエルFBR議長の更迭を意味しかねない発言がボスであるトランプ大統領から飛び出しており大惨事になりかねない。
自民党はこれまでの政策の失敗も今後の行き詰まりも認めていないが、自民党幹部たちの発言を注意深く聞く限り今後の難局を十分に予想しているようだ。このため今持っている既得権益としての消費税を手放したくない。だから「そもそも議論すらしない」と言っている。
とはいえ、無党派層の苛立ちは感じ取っているのだろう。
自民党と公明党の間でとりあえず20000円くらいのお小遣いを与えておけばなんとかなるのではないか?と話し合いが始まっている。20000円は現金ではなくマイナポイントになるようだ。これも一種のポピュリズムのように思えるが自民党にとって見れば「地方にとって優しい政党であり続ける」ために無党派層から搾り取り続ける必要がある。これは彼らにとって見れば権力維持の必要経費なのだろう。
日本の政治に生まれた「地方か無党派層かどちらか一方しか救えない」という状況は夫婦別氏制度や戦後80年総括などにも影響を与えている。自民党の党内にも保守派と改革派があるが、今議論を始めてしまえば党内の対立構造に火をつけかねない。つまり日本は次世代の国のあり方について意思決定が一切できない思考停止状態に陥りつつある。
国民は今一度冷静になり、今救うべきなのは日本なのか自民党なのかを考え直したほうがいい。