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ホワイトハウスがBBCを激しく攻撃 ガザ地区の報道を巡り


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ホワイトハウスがBBCを激しく攻撃している。フェイクニュースを流したというのである。

アメリカ合衆国の民主主義は崩壊過程にある。では民主主義の崩壊とは「独裁化」を意味するのだろうか。非常に興味深い問いだが必ずしもそうではないようだ。

独裁国家とアメリカの違い。それは統治に対する能力に対する自己評価である。どうせ統治できるはずがないと言う諦めがアメリカの政治に独特のニヒリズムを生み出している。

アメリカ合衆国では没落した中流階層の不満が高まっている。1980年代レーガン政権のトリクルダウン政策がきっかけと考えられている。民主党のオバマ・バイデン政権も中流階層の不満を解消することはできずトランプ政権の台頭を招いた。エマニュエル・トッドのように「敗戦」と評価する人もいる。

トランプ政権は命を軽視し自分たちの利益を最優先にするという新しいイデオロギーを持っている。非常に虚無主義的なイデオロギーだ。ニヒリズムに支配され自己の利益を最大化すると言う荒んだイデオロギーは当然万人闘争に発展するだろう。

虚無主義の背景には独特の無力感がある。

例えば中国共産党は自分たちは中国人民を支配できると考えており、これが独裁思考へとつながる。統治に対する自信を持っている現れともいえる。中国は先生独裁かもしれないが共産党が投げやりになっているわけではない。

独裁にせよ虚無主義にせよ一方的にストーリーを決めてそれに合致するエビデンスを持ってくるという点では共通している。

トランプ政権でもこうした手法が蔓延している。中国は認めないと言う方針を取ることが多いが、アメリカは「エビデンス」を突きつけて反論しようとする。ところがこのエビデンスの立て方がいかにも投げやりなのだ。

その新しい事例がBBCに対する攻撃だ。イスラエルがガザ地区で発砲を起こした事実はないと「証明」するためにあるSNS投稿を掲げた。当初BBCはイスラエルの発砲を伝えていたが後にそれを削除したというのだ。

BBCはそれに対して冷静に反論している。論破は実に簡単だ。そもそも削除などされていないのである。

BBCは現地に入ることができておらずしたがって双方の発表の信憑性を担保できない。そこでまず幅広く情報を集めて後で精査する。BBCはそのためにヴェリファイ(確認)という報道番組を持っている。

ホワイトハウスは「BBCと違ってハマスの言う事を一方的に信じるようなことはありません」としているが、実はBBCも一方的にハマスの言い分を垂れ流しているわけではない。両論を併記し後にベリファイしている。この過程で説明がつかない「事実」を棄却しているのである。過程はすべて公開されており議論・検証の結果を追うこともできる。

冷静に考えればこれは事実確認の極めて真っ当な手法であり、まともな人が考えればすぐに合理的だと分かるはずである。

ところがアメリカ合衆国ではすでにこの当たり前が通じない。「アメリカ人は馬鹿だ」と結論づけることはできるのだろう。だが、もちろんアメリカ人が馬鹿というわけではない。

アメリカ合衆国の中流層は転落の危機にさらされている。しかし自分たちが信じてきたアメリカン・システムの問題だったとは考えたくない。利益を追求するアメリカン・システム(トリクルダウンセオリーもその中に組み込まれており実は彼らを苦しめている可能性が高いのだが)は維持したままで、なにか別のものが彼らを苦しめていると信じたいのである。そのために彼らがやり玉に挙げているのが、グローバリズム・移民・知的エリートだ。

アメリカの民主主義は分厚い中間層に支えられているが彼らはもはや搾取の対象でしかない。こんな民主主義は持続可能ではないに決まっている。これを修正するためには何らかの急激な変化が必要でありトランプ大統領の政策に全く合理性がないとは思わない。

しかし急な修正が必要であるために無理なストーリーを作ったうえで、文脈を無視した状態で他者に押し付けようとしている。

国際安保理はガザの人権状況の悪化を懸念しハマスを温存したままの無条件即時停戦を求める決議案を採決を行ったがアメリカ合衆国が拒否権を発動している。理事国からは「怒りの声」も聞かれたという。

アメリカ合衆国の論理は砂の上に立てたお城であるがゆえに同盟国や国際社会からは理解されない。むしろ「それ故に」無理に無理を重ねた正当化が必要になってしまうのだ。

大変痛ましいことである。

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