ドイツのメルツ首相がホワイトハウスを訪問した。ホワイトハウスは極右AfDに肩入れしておりメルツ氏ら既得権益層が「言論統制を行っている」と批判を強めている。このためメルツ首相は事前にかなり警戒していたようだ。しかしながら結果的にこの心配は杞憂で終わった。トランプ大統領が心変わりしたのか。そうではなかった。
ナチスドイツの台頭を許したドイツは伝統的に極右の再来を恐れている。このため移民排斥のAfDとは協力しないという不文律を「ファイヤーウォール」として掲げてきた。バンス副大統領などが反発しており「言論統制である」と攻撃している。
Axiosによればオーバルオフィスは海外の首脳たちに取って鬼門となりつつあるようだ。ゼレンスキー大統領とラマポーザ大統領がその被害にあっている。ゼレンスキー大統領は冷笑的な雰囲気に耐えきれず暴発。ラマポーザ大統領は「白人が虐殺されているエビデンス」をさらされた。後にホワイトハウスのプレゼンテーションにはデマが含まれていたことがわかっている。
BBCによればメルツ首相はかなり警戒したようだ。事前にトランプ大統領の祖父の出生証明書を持参した。国際的に流通する非公式トランプマニュアルに従えば「良心に働きかける」のは有効的な手段。トランプ大統領に「あなたもドイツ系ですよね」と示す意図があったのではないかと思う。
ただ、結果的に「扱いにくい人だ」と論評された程度で何も起こらなかった。
ではトランプ大統領は改心したのか。どうやらそうではなかったようだ。記者会見では盛んにマスク氏を批判していた。
イーロン・マスク氏は「言いたいことがあると我慢できなくなる」性格。トランプ大統領と対峙すればテスラ社の経営に影響が出ることはわかっていて(実際に今回の一連の出来事のあとでテスラ社の株価は下落したそうだ)友好的なチーム離脱を演出してみせた。
しかしながら、一度思い込むと我慢できなくなり後先を考えずにSNS発信をしてしまう。法案を批判しフォロワーに「地元の議員に連絡をして法案に圧力をかけるように」呼びかけている。
トランプ大統領は「美しい身内」と「醜い敵対者」を明確に分ける傾向がある。このため「法案でなく自分を攻撃すればいいのに」と言っている。容赦なく反撃できるからだろう。しかしマスク氏はあくまでも法案とその無駄に付いて腹を立てているだけでトランプ大統領を攻撃しているわけではない。
結果的にトランプ大統領はマスク氏のことで頭がいっぱいになりメルツ首相を吊し上げるところまでは気が回らなかったようだ。「身内」の造反にかなり心を痛めているようだ。
トランプ政権にとって外交は単なる「アピール」であり何かの戦略があるわけではない。内政のゴタゴタで頭がいっぱいになると相手国の首脳を貶めて得点を稼ぐところまで気が回らなくなる。
さらにこれは日本の関税交渉が更に難しくなったことを示唆している。7月4日の独立記念日までに「一つの大きくて美しい法案」が上院を通過するかどうかに関心が集まる中、日本の関税や同盟関係に対する優先順位はおそらくそれほど高くないだろうということは容易に想像できる。
トランプ大統領はこの他にロシアのプーチン大統領や習近平国家主席と首脳会談を行っている。プーチン大統領はウクライナの国内攻撃を理由に報復を宣言。トランプ大統領も和平交渉が行える状態ではないと認識したようだ。
習近平国家主席との間でも閣僚級審議継続ということになった。習近平国家主席が出る段階ではないと示したのだろう。習近平国家主席は台湾の主権は中国にあるという従来の姿勢を繰り返し関税を武器化しないように求めた。閣僚級の会談を継続することになったが具体的な場所などは決まっていないとのことである。