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農協システム維持のままでは消費者は安いコメを買えないままだろう


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石破総理が小泉農水大臣に対して米価安定のための具体的な策を講じるように指示を出した。構造的問題を調べるように指示している。普段の当ブログの普段の論調に従えばこれは歓迎すべき動きということになるだろう。だが石破総理はコメの価格安定は望めないだろう。農協システムにきちんと対峙しているとは言えないからだ。石破総理を担当教官に例えると官僚のカンニングを容認している。

石破総理は小泉農水大臣に「コメの価格を安定させる」ように指示を出した。このときに短期的な方策だけではなく構造問題を捉え中長期的な対策を講じるように求めている。原因を冷静に突き止めて策を講じると言うやり方は非常に合理的に見える。JAが支配する流通にも触れている。

ではこれは農協システムの解体につながるのか。石破総理は官僚にカンニングをさせている。

コメの価格安定指示の裏で石破総理は選挙での農家対策として「増産に転じればコメ農家の保護が必要になる」という誘導も行っている。本来構造解析が終わるまで一切結論は出せないはずなので「ある程度当たりをつけて」構造解析をその方向に誘導しようとしていることがわかる。

この場当たり的な誘導は実は2015年の安倍政権下でも行われてきたというのが今回の記事のメインテーマだ。

表面的にコメの価格を安価に維持しつつ安易に所得補償を行えば「コメの価格を税金にして隠しているだけ」ということになる。しかし石破政権は財政再建派の「けちんぼ」政権でもある。中途半端な支援は支援金の垂れ流しにつながり問題が本質的に解決することはないだろう。

ではなぜこのようなことになるのか。原因は「農協システム」だ。

コメは関税で守られている。つまりそもそも消費者はコメを国際価格より高い水準で押し付けられている。コムギにはそのような措置はないため結果的にコムギが有利な状況が続いていた。

自民党が保護しているのは支持母体になっている農協である。中小零細の多くの農民が潜在的支持者だ。

この農協システムは明らかに老化・劣化している。羽鳥慎一のモーニングショーはJA全中の福間さんという人を招いて議論を行っていた。一見、農協サイドの意見も聞き「公平な報道」を行っているように見える。しかし結果的にはJAをグリル(俎上に上げていたぶることを「炙る(グリルする)」と表現する)する結果となった。

玉川徹氏の執拗な攻撃に対して、福間氏は結果的に市場主義でJAのコメが売れなくなればそれは仕方がないことであると開き直る。

福間氏はJAは卸を特定の業者に限るようなことはしていないと主張したが、玉川徹氏が「5次まである流通」の問題を指摘すると「そこにはそれなりの理由がある」と抗弁している。

おそらくはAmazonやドン・キホーテ(現在コメ流通批判を行っている)などのような合理的な流通が理解できないのだろう。全国にコメを届けるためには今までのような不効率なやり方を温存する以外にないと思い込んでいるのである。

このプレゼンテーションを見ると「ああやはり農協システムではダメなんだ」「小泉農水大臣に期待しよう」で終わってしまうのだが、そもそもこの福間さんという人はどういう人でJA全中って何なんだろうか。そもそもテレビ朝日はなぜ福間さんをショーに呼んだのか。吊し上げるためだったのだろうか。

福間莞爾さんは現在「JA全中批判」を行っていて、全中に代わる新しい組織の立ち上げを主張している。つまり自身の認識は改革者であり、そのために支持を集めたいという思惑があったものと思われる。一種の選挙運動である。

JA全中は2015年に監督権限を剥奪された。

福間さんは「2007年にJA全中を大っぴらに使って参議院議員に当選した山田俊男氏が安倍総理に睨まれた」と考えている。

記事の中で福間氏はJA全中について次のように説明している。

農協法に基づく中央会は、行政がつくった公的な機関です。戦後、1万組織を超えていた農協は経営難に陥りました。そこで農水省が1954年に中央会を設立し、監査権限などの特権を与え、国の意思を代行する機関として農協の経営指導をやらせたのです。

JA全中はなぜ“農協の司令塔”の地位から転落したのか?「独裁」で組織が腐敗した内幕を元常務が大暴露!(ダイヤモンド・オンライン)

さらに別の記事では「JA全中は今のままではダメだから新しい組織を作らなければならない」と主張している。

ダイヤモンド・オンラインによれば福間氏は1943年生。在学中に上級公務員試験に合格したが全国農協中央会に入ったという。この経歴を見ると福間氏の主張がJA全中における派閥抗争という含みを持っていることがわかる。

テレビ朝日がなぜ福間さんを起用したのかはわからない。

農協系に打診しても断られてしまったということなのかもしれないし農協の改革をインサイダーの視点で語ってもらおうとした可能性もある。

しかし玉川徹氏のように思い込みが激しい人が「所得補償制度は大口の農業経営者に限り零細は退出してもらったほうがいいのではないか」と主張するとやはり「既存の農協システムの擁護者」のように振る舞わざるを得なくなる。改革というのは実は相対的なポジションなのだ。

結果的に「JAってやっぱりダメなのね」という雑駁な印象しか残らない。視聴者はJA全中の複雑な背景に付いては理解せず「農協が潰れれば全部解決するだろう」くらいの雑駁な感想で終わるかもしれない。

今回の一連の騒動では語られなかったこともある。安倍政権は「身の程をわきまえない」JA全中から監視特権を剥奪した。では「その代わりに農水省はどのようにして中小零細からなる農協を管理しようとしたのか」が全く見えてこないのだ。

仮に農協主体で改革を進めようとするならばJA全中に代わる新しい監理団体が必要になるだろう。石破政権もそのような構想を持っているのかもしれない。

だが、仮に組織だけを取り替えても第二農協が出来上がるだけではないか。

現在の議論を見る限りとりあえず選挙が行われている間は米価下落の期待をもたせつつ備蓄米を配るというような方針しか見えてこない。後は予定調和的に「事実上の」減反政策は廃止しコメの価格維持のために多額の公費を入れるが、その議論は選挙の後にのんびりと行うというような荒っぽい見込みだけが見え隠れする。背景にいる中小零細からの得票に期待している限りは第二農協が作られるだけ。そしてそれは消費者にとっては負担になる。

わざとなのか対処能力がないのかはよくわからないが石破総理は国土交通省を入れて流通について検討するとのんびりしたことを言っている。それよりも効率化が進んでいる大手流通を入れてどこまで現代化が進んでいるのかを聞き取ったほうがよっぽど早い。小泉農水大臣が流通大手に働きかけたことで何ヶ月経っても小売店に並ばなかったコメが一気に並んだのに、石破総理はそのことに全く気がついていないようだ。

ではなぜ石破総理は現場から直接聞き取りをしないのか。

仮に現場が様々な「エビデンス」を出し現在のコメ流通には問題があったと指摘したとしよう。官僚は問題を解決しなければならなくなる。一方で官僚に問題解決を任せれば官僚は自分たちがやりやすいように試験問題そのものを改変してしまうだろう。官僚は楽なのだろうが問題解決能力は落ちてしまう。

いわば現在の構図は官僚カンニングなのだ。

JA全中は自分たちの改革については触れず「コメの価格は3000円台を死守すべき」と主張している。

そもそも「備蓄米の弾切れ」は見えているのだから卸は「選挙が終わるまで我慢していよう」と思うだけだろう。石破総理の見当違いの対策では不効率なコメの流通も温存されそうだ。

今回は農協システムという雑駁な言葉を使ったが農政に対して長期的なビジョンを持たず場当たり的な対応を繰り返してきた自民党もまた「農協システム」の一部だと気がつく。自民党がそのまま存続し続ける限りは第二・第三の農協システムが再生産されるだけということになる。

自民党は「郵便局」でも同じ問題を引き起こしている。ドライバーの飲酒運転などをなくすことができず一部の運送免許が剥奪されうようだ。バンタイプ2500台が稼働できなくなる。アエラは「「おにぎりすら食べられない」 相次ぐ郵便局員の突然死は“氷山の一角“か 仕事に誇りを持っていた40代男性はなぜ亡くなったのか」と悲惨な労働環境について取材しており、何らかの経営の問題が克服できていないことがわかる。マスコミも構造問題には触れず「私達の郵便に影響が出るのではないか(それは困る)」ということだけを問題視している。

冷静な人は気がついていると思うが今目の前にある問題は実質賃金の下落対策である。大きく記述するならばコストプッシュ型のインフレを克服するか受け入れて痛み止めを打つかと言う選択だ。マスコミに悪意はないと信じたいところだが、結果的に小泉コメ劇場に加担し「コメの問題さえ解決すればすべてが丸く収める」という幻想を振りまいている。

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