共和党の上院議員が「どうせ最後にはみんな死ぬ」と言い放ち炎上している。ただ日本とは違って上院議員は「こんな簡単なことをみんな知らないなんて驚いた」と開き直った。
トランプ政権だけでなく議会共和党までも国民に寄り添わなくなっていることがわかる。アメリカ合衆国には万人闘争主義という新しいイデオロギーが生まれつつあるようだ。エマニュエル・トッド氏はこれを虚無主義(ニヒリズム)と言っている。
トランプ政権は「一つの大きくて美しい法案」を通そうとしている。トランプ候補の経済政策は最初から破綻していたため、矛盾に満ちた内容だ。共和党の一部はさらなる歳出削減を行わなければ法案成立には協力ができないと反発している。
一度は融和姿勢を見せたイーロン・マスク氏もついに我慢ができなくなったようで再び法案の批判に転じた。トランプ大統領と敵対すれば本業にも影響が出かねないが後先が考えられない人なのだろう。
トランプ大統領はマスク氏には敵対姿勢を見せていないのだが、財政赤字を懸念するランド・ポール上院議員とは敵対姿勢を見せている。ホワイトハウスのレビット報道官は「邪魔するものは政治的代償を支払うだろう」と猛々しく警告している。
財政赤字の拡大を恐れる共和党はメディケイドの削減について話し合っている。トランプ大統領自身はメディケイド削減には消極的だ。
タウンホールミーティングでアイオワ州選出の共和党上院議員であるジョニ・アーンスト議員がメディケイドについて言及した所、聴衆から「このままではみんな死んでしまうぞ」とのやじが飛んだ。
これに対してアーンスト女史は「どうせみんな死ぬんだけどね」と受け流し、当然ながら炎上した。
炎上が収まらないためにアーンスト女史は謝罪をしたのだが、その謝罪は一風変わっていた。墓地に出向き「みんな最後にはこうなるという簡単なことを知らないとは」と驚いて見せたのだ。自分は間違っておらず単純な事実もわからない聴衆がバカなのであると嗜虐的に攻撃したことになる。
エマニュエル・トッド氏がいう虚無主義である。
確かにアーンスト女史の言っていることには間違いはないのだが、困っている人を救うことができない政治に意味があるとは思えない。仮に政府が国民の安全・安心に寄り添わず「自分の力で生き残れ」とのメッセージを送れば、国家は万人闘争状態に陥ってしまうだろう。ただ現在のアメリカ合衆国に国民を救う財政的な余裕がないことも確かである。
冷静に考えてみれば、選挙結果が気に入らなければ議会を襲撃してねじ伏せてしまえばいいというのがすでに万人闘争を助長している。アメリカ合衆国では議会制民主主義は国民を救済できないという虚無主義的な諦めの空気がある。
この一種独特なニヒリズムを背景に言論内戦状態に入ったアメリカ合衆国では「他人の命など知ったことか」という新しいイデオロギーが芽生えつつあるということになる。
格差を放置した挙げ句「中間所得者の反乱」からトランプ大統領が誕生したと考えるとこれもアメリカ合衆国の有権者の意思なのかもしれない。しかし、かつてあった自由で繁栄したアメリカ合衆国が音を立てて崩れてゆくのは傍から見ていても辛いものがある。