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救済者小泉進次郎大臣が破壊する日本の農政

9〜13分

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小泉進次郎農水大臣の力強いリーダーシップにより生活応援米が市場に素早く流通することになった。農林水産省の職員もブランド米の価格防衛に成功し大いに喜んでいるだろう。

だがこれは日本の稲作農業の崩壊につながりかねない危険な動きだ。

今回のコメの価格高騰は南海トラフ地震の警告に端を発している。だが、これはくまでもきっかけに過ぎなかった。

一部の家庭にとってコメはなくてはならない穀物であり価格が高くても買い続けるしかない価格弾力性の低い商品だ。

これを裏付けるのが江藤米(江藤拓農水大臣が放出した備蓄米)の放出速度だ。

小泉米が小売店舗に並ぶスピードを考えると極めて流通が遅い。11日時店でわずか12.9%しか出ていないそうである。おそらく既存流通は年間スケジュールを決めてコメを分配している。既存のコメが高く売れているのだから江藤米を優先して売るインセンティブがなかったのだろう。

実際に消費者は高止まりしたコメを買い続け東京都区部のコアCPIは食品が牽引し3.6%も上昇している。買おうと思えば買うことができる程度の経済状態の家庭が多いことがわかる。また6月も食品値上げが1932品目ある。

ここから今起きているのはコメ問題ではなく「コストプッシュ型のインフレ」問題であるとわかる。今回の小泉米はこのコストプッシュ型のインフレでコメが買えなくなっていた獅子奮迅の活躍をする応援するに値する人たち(これはポリコレ的表現であり実際には救済といえる)に対するエールになっている。

このためにこれまでわざわざ倉庫で数年寝かし経済的価値を落とした(これもポリコレ的表現だ。「味が落ちた」といえば叩かれる。)コメを安値で放出している。

ここでこれが持続可能なのかを考えなければならない。

これまでのスーパーの状況を見るとブランド米は高くても売れている。店頭に出すとなくなってしまうため計画流通されているが決定的に不足しているわけでもない。カリフォルニア米が店頭に並んだところを見たことがあるのだがすぐに見なくなった。おそらく売れなかったのだろう。

この状況を説明するためには2倍になった価格を正当化する隠れたコストがあるとみなさなければならない。それがスイッチングコスト(切り替え費用)である。

消費者は新しい製品を買うことを躊躇することがある。切り替え費用が高いと表現する。マーケティングの現場ではこの切り替え費用をできるだけ低くする様々な取り組みが行われている。試食サービスやサンプルの配布なども通じて切り替え費用を下げてゆく。また好ましい意味付けを与えて心理的障壁を低くする試みも行われることがある。

現在のブランド米はおそらく価格弾力性が低く切り替え費用が高い品物になっている。つまり、価格はなかなか下がらないことが予想される。

では価格弾力性が低く切り替え費用が高い品物にはどんな運命が待ち受けているのか。

今回はブランド米は切り替え費用が高いと仮説している。仮にこれが正しければ「そもそもこれまでに獲得した顧客」によって買い支えられているということになる。新規顧客はそもそもこうしたコメを買えない。高すぎるからだ。

ただ既存顧客はやがていなくなる。

小泉大臣は、価値のあるコメをわざわざ数年倉庫で寝かせて(大臣いわく世界最高水準の保存システムなのだそうだが)経済的価値を落としたコメを配布しているが、こんなことを何年も続けられるとは思えない。

仮に日本の経済状況が良くならなかった場合こうした貧困対策(政治的に正しい表現としては生活者に対するエール)を続けることになる。今後もわざわざ倉庫で何年か寝かせて放出するより外国から安いコメを輸入したほうがてっとり早い。

さらにコメはコメとだけ競争しているわけではない。

今回のコメ不足を受けて一部のスーパーは店頭入口などの目立ったところに輸入パスタを並べている。1キログラム290円程度で購入することができる。5キロ換算で1500円弱になる。

農林水産省も小泉大臣もブランド米の価格を維持することで将来の顧客の離反を招いている。しかし、悪性インフレのもとでは消費者と生産者を同時に満足させる市場価格を設定することはできない。つまり解がない問題を解こうとしている。

ここから得られる結論は

  • 日本経済がこのまま停滞をづづけるという前提を置くならば
  • コメの価格に市場適正価格は存在せず
  • 将来の顧客はブランド米から離反するだろう

ということになる。

前回のエントリーでは今回の問題をバブル崩壊後の「イタリア製高級服」と比較した。令和の時代の「普通のサラリーマン」はアルマーニやベルサーチなど着ていない。むしろ「全世代の遺物」とみなすだろう。変化は緩やかかつ確実なものだが、やがて価値の逆転現象が起きる。

仮にブランド米がこのような運命をたどるならば数世代後には文化財のように保護の対象になってしまうかもしれない。

ブランド米もそのような道を歩み始めているが、おそらく感情的な議論に終止する人たちはその現実に気がついておらず「エサとは何だ!」「生活応援と呼びなさい!」「古古米も工夫次第で美味しいはずだ」などと息巻いている。

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Comments

“救済者小泉進次郎大臣が破壊する日本の農政” への2件のフィードバック

  1. 細長の野望のアバター
    細長の野望

    色々な要因が米不足なっているためか、それを紐解くのは難しく、分かりやすい「黒幕」の存在を求める姿がSNSで見かけますね。Toggetterだと以下のような指摘をする人もいますね。

    「今のお米の高騰は「JA」も「転売ヤー」も関係ない。本質的な原因は、政府が定めた「玄米基準の作況指数」による統計上の収穫量に対し、「精米の流通量」が乖離していた結果では」

    今回の米放出は安くていいねという感想もあるけど、放出した分の米を補充しなくてはいけないんだよなとも思いました。しかし、調べてみると2~4月が苗づくりで5月が田植えと書いてあるので、今年は増産が出来ないことが分かります。しばらくは備蓄米が減った状態が続くので、国防的には不安定な状態が続くのかなと思いました。たかが米だと思っていましたが、色々と考えなくてはいけないことが多く、目をそむけたくなるのも分かってしまいます。

    1. サンプル検査してみれば分かる話なんですが、日本人はそういうのを嫌がりますよね。なんでなんでしょうね。

      > 本質的な原因は、政府が定めた「玄米基準の作況指数」による統計上の収穫量に対し、「精米の流通量」が乖離していた結果