日本とアメリカの首脳会談が行われたと伝わっているが、そのニュースを全く読んでいない。
アメリカ合衆国の事情を見ていると「おそらくそれどころではないだろう」と思えるからだ。ニュースを見ていないので日本人が今回の首脳会談をどう捉えているのかもよくわからないが、砂の上にお城を建てているようなもので交渉の分析には全く意味がない。
トランプ大統領の政策はそもそも矛盾に満ちた気まぐれなものだった。
これを無理にまとめて「大きくて美しい法案」にまとめようとしているため大混乱している。下院は1票差で通過したが上院では抵抗が予想されていている。またイーロン・マスク氏が政権を離脱。「大きくて美しい法案」に失望したとCBSのインタビューで答えている。ABCニュースはこれを「批判だ」と表現した。
更に打撃になったのが国際貿易裁判所の無効判決である。差し止めではなく「無効」と判断した。トランプ政権は最高裁判所に下級裁判断を覆すように介入を要請する意向のようだ。
仮に関税が無効化されると関税の上に成り立っているイギリスとの間の協約の意味がなくなってしまうとBloombergは書いている。これが「砂の上のお城」の意味だ。
さらに、自動車・アルミ・鉄鋼はこれとは別の枠組みを使って関税を徴収している。つまり国際貿易裁判所の判断にかかわらず自動車・アルミ・鉄鋼関税は有効であり続ける。むしろ関税がブロックされたことでトランプ政権はますます自動車・鉄鋼・アルミ関税に固執するかもしれない。減税とリンクしているために看板として下ろせないからだ。
そもそもまとまるはずがないものを無理にまとめようとし、その一環として関税を取ろうとしたが、裁判所に無効だと言われてしまったということになる。つまり砂の上にお城を建てている状態であり、そこで何か交渉をしても全く意味がないためニュースとして追いかける価値はない。さらに石破政権が何を差し出そうが大した意味はない。
しかしながらカオスになっているのは経済だけではない。
トランプ大統領はリアリティショーのタレントを恩赦した。ショーのイメージを保持するために無理に無理を重ね、詐欺や納税回避を行っていた罪で服役中だった。
FOXニュースで娘のインタビューを見て恩赦を決めたと言われている。
トランプ大統領はいいことをしたと満足しているようだが実際には大統領に近ければ詐欺や納税回避も許されるというメッセージをアメリカ合衆国全体に振りまいていることになる。つまりアメリカ合衆国を支えてきた勤勉さという価値観が大きく損なわれている。
仮にアメリカ合衆国が製造業を再び取り戻したいのであればまず先にピューリタニズムの伝統を復活させる必要があるが、トランプ大統領はリアリティショーの価値観(うわべだけがきれいにみえれば後はどうでもいい)という真逆の価値観を振りまき続けている。
さらにハーバード大学を巡る状況も大混乱している。
大学側は連邦を提訴し連邦下級裁も処分差し止めを延長した。するとトランプ大統領は「留学生の割合を15%に制限すべきだ」と言い出した。留学生を受け入れる資格はないと言っておきながら割合を制限するという発言にはなんら一貫性はなく単なる気まぐれでハーバード大学をいびっていることがわかる。
ABCニュースはBacktrack(主張の撤回)と言っているが撤回というよりはカオスと言う表現がふさわしいのではないか。前の提案の上書きとなる矛盾したコメントが乱発されている。
ところが混乱はここでは終わらない。トランプ大統領は単に自分の価値観を他人に押し付けているだけだが、共和党タカ派のルビオ国務長官はガチの確信犯だ。本気で中国排除を狙っているようである。中国人留学生のビザを積極的に取り消すと宣言している。
- 中国人留学生のビザ「積極的に取り消し」 米国務長官(CNN)
- U.S. to begin revoking visas for Chinese students(Axios)
- China students call measure ‘Chinese Exclusion Act’ after Rubio vows to revoke visas(ABCニュース)
確かに「国益上も中国人の制限は仕方がないのではないか」とか「連邦の支援が入っているのだから中国人ばかり優遇されるのはいかがなものか」とか「ハーバードは中国人を相手に金儲けしているのではないか」という指摘にも一定の合理性はあるだろう。
しかしながらこのときにかなりおかしな理屈付をしている。アメリカ合衆国は人権を守る義務があり米国人を検閲する一部の政府関係者を排除すると宣言している。これは結果的に中国共産党政権を指しているものと考えられる。
しかしながらそもそも連邦政府は留学生にビザを発給するためにはSNSの審査が必要だとしている。反アメリカ的な思想は許されないと言う考え方だが、これは思想検閲だ。また何が反アメリカ的なのかは示されない。
リアリティショーのタレント恩赦から「反アメリカ的」を定義するのはトランプ大統領の気まぐれということになるが、これは裁判所の激しい抵抗にあっている。
つまり、言った何がアメリカ的で何が正義なのかがよくわからなくなっている。このよくわからないものの上にお城を建てたうえであれこれと「交渉材料」を揃えて差し出しても全くの無駄に終わってしまう可能性が高いのである。
