Quoraで連日トランプ大統領についての記事を書いている。これまでのアメリカの価値観を否定するトランプ大統領に反発する日本人も多く概ね好評だ。特にトランプ大統領のやり方を中国の文化大革命に例えるシリーズは評判が良かった。
しかし一つの方向で記事を書くと「いやいや、そうじゃない」と考えるアンチが出てくる。
そこでエマニュエル・トッドの家族システについてしらべてみた。ChatGPTにも聞いてみたので(内容については検討していないが)参考にしていただきたい。
そこで別のアプローチで分析を試みる。エマニュエル・トッドの家族システム論である。世界中の家族を分析し政治文化を分類している。ただし結論は似ている。やはりトランプ大統領は一部中国化しているということになる。
- 絶対核家族 (la famille nucléaire absolue):親子は独立しており兄弟の平等に無関心。
- アングロサクソン
- 平等主義核家族 (la famille nucléaire égalitaire)
- 直系家族 (la famille souche):長男がイエを相続する。父親は権威的だが兄弟は平等ではない。
- 日本とドイツ
- 外婚制共同体家族 (la famille communautaire exogame):兄弟がイエに残り家父長が平等を保証する。
- ロシアと中国
- 内婚制共同体家族 (la famille communautaire endogame)
- 非対称共同体家族 (la famille communautaire asymétrique)
- アノミー的家族 (la famille anomique)
- アフリカ・システム (le système des familiaux africains)
アングロ・サクソンが絶対核家族であるという前提で、トランプ大統領の略歴を見てみたい。実は彼は典型的なアメリカ人ではない。
ドナルド・トランプ氏の祖父のフレデリック・トランプ氏はドイツのカルシュタットの生まれ。妻もドイツで迎え入れている。その息子のフレッド・トランプは不動産ビジネスで成功した。長男のフレデリック・トランプ Jrに期待を寄せるが長男は父に反発している。
ここまでを見るとトランプ家がドイツ的な相続をしていることがわかる。相続者の名前がすべてフレドリックだ。フレデリック Jr.は父親に徹底的に排除され最後はかなり不幸ななくなり方をした。
フレデリックの代わりにイエを相続したのが「家の名前=フレデリック・フレッド」を持たないドナルドだった。大統領の息子はドナルド・トランプ Jr.でありやはり長子相続的な考え方を保持している。
ここからトランプ大統領が強くドイツ的システムの影響を受けていることがわかる。
このためトランプ大統領の言動にはドイツ的システムの影響が色濃く受け継がれている。父親が価値観を提示し長男がそれを実行するというやり方。
例えば日本製鉄の買収については他国がコントロールすべきではないという価値観を提示している。
He said: “It’ll be controlled by the United States. Otherwise I wouldn’t make the deal.”
Trump: US Steel will remain under US control after deal with Nippon Steel
(NHK)
そもそもアメリカ合衆国は1つのデパートのようなものであり、そのデパートは自分の価値観で経営されると言っている。
“And on behalf of the American people, I own the store, and I set prices, and I’ll say, if you want to shop here, this is what you have to pay.”
How Trump is trying to manage “the store”(Axios)
しかしアメリカ合衆国の主流派であるアングロサクソンはそう¥考えない。むしろ父親や長子が息子にあれこれ指図をすることを嫌う。ジョージ・オーウェルの1984年には「ビッグブラザー(兄貴)」という存在が出てくる。アングロサクソンはこうした家父長的な家庭に強い嫌悪感を示すのである。
アメリカ人は家父長に強い嫌悪感を持っているため、中国やロシアのように強い父権のもとで結果的に人民の平等が保たれると言う考え方が理解できない。共産党の指導体制は単に「暴力的な支配」であり権威主義・専制主義でしかない。
ではトランプ大統領のドイツシステムが中国的なのかということになる。そうではない。中国は父親の権威のもとにメンバーが家に留まり結果的な平等を得る。ところがドイツシステムにはそのような考え方はないのだ。
トランプ大統領はイエと国家を完全に混同しておりホワイトハウスで自分たちのイエのビジネスを行っている。それがミームコインの晩餐会だ。
そもそもアメリカ市民は憲法規範に則って大統領を選んだのであって「あれこれ指図してくる父親」を選んだわけではないうえに、中国共産党のように強い指導者のもとで結果的に平等を目指しすシステムでもない。日本・ドイツと中国・ロシアでは社会システムが違う。
結果的にイエによる私物化と権威主義に対する反発が強まりアメリカの政治システムは大きく混乱することになる。
エマニュエル・トッドの議論はおそらく日本の保守にとっても大きなヒントになる。
伝統的な戸籍システムにこだわる人たちは古くから日本にあった長子がイエを継ぐシステムの復活を求めていると再解釈することができる。しかし日本国憲法はこれをFeudal System(封建主義)と否定したうえで絶対核家族型の影響を受けた新しい憲法を作ってきた。このため我々の意識には2つの考え方が混在している。
現在の日本人にこれを受け入れさせるためには(特に)女性に対してFeudal Systemのほうが安定して暮らせますよと証明しなければならない。終身雇用制(夫が稼ぐシステム)が崩壊している21世紀の日本でこれはかなり困難な事業と言えるだろう。今の家長は一家の生活を保証することはできない。ただし各家族的な価値観も浸透していないので子育てをする女性は結果的に孤立・疲弊することになる。
野党に陥落した自民党は自分たちが一体何を目指しているのかがよくわからなかったようで「日本人には天賦人権はふさわしくない」と絶叫して終わった。
今回の論についても誰かが何かを主張すると反発する人ばかりが多く「では自分で論理構成してみよう」と言う人はいない。単に心理的反発で終わってしまう人が大半なのだ。
特に保守主義の理論家に失敗した自民党はこれが顕著だ。党内でイエにに対する考え方がまとめられなかったために「とにかく野党に対して反対するように党議拘束をかけよう」という動きが出ている。

Comments
“トランプ大統領はなぜアメリカ合衆国に混乱を引き起こすのか 家族論との関係” への2件のフィードバック
ドイツが家父長制の強い社会だった事は全然知らなかったのと今のドイツ社会
しか知らなかったので実感が沸かなかったのですが、大統領の祖父の時代の
価値観なのであれば納得は出来ます。しかしそんな古い価値観が現在まで温存
され続けているとは、自分達が生きてる世界が世界の全てな人達だからこそ
成立してしまうんでしょうね。
そりゃそんな人が国で一番偉い地位に着いたら大統領同様に家父長主義が
当たり前な人達は喜ぶ以上の感情を抱いてるでしょうね。ありのままの自分達を
無条件で肯定してくれて尚且つ後ろ盾になってくれる救世主なんですから。
あと日本の保守の中にもトランプ大統領を安倍さんの上位互換と見ている人達が
いてると聞きます。同じ家父長主義者として安倍さんに夢を託してた様な人達
ですからありえそうな話ですよ。
家父長制が強く、父親由来の心理的抑圧の大きさからドイツやオーストリアでは心理学が発達したんですよね。フロイトとユングが有名ですよね。そういう観点で読んでみると面白いかもしれません。