小泉進次郎農水大臣が早くも農林水産省の罠にハマった。キーワードは考慮集団(consideration set)だ。
果たして消費者は単に安いという理由だけで喜んで古古米を買うだろうか。
反農水省の立場から情報発信を続けるキャノングローバル戦略研究所の山下さんは」次のように言っている。
小泉農水大臣は備蓄米を2000円で販売すれば、生産者が反対すると考えたのだろう。5月24日北海道で農家やJA北海道中央会と会談した。しかし、特段の反対はなかった。当たり前だろう。かれらは備蓄米を2000円で売っても、4200円の精米価格の水準、60キログラム当たり2万7000円の玄米価格は影響を受けない、下がらないと思っているからだ。
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ただ、山下さんはその背景情報を説明していない。
私達が何かを買う時に暗黙の了解がある。例えば毎食コメを食べている人はお気に入りのコメの範囲が決まっているはずだ。またコメとパンを比較する人もいれば、コメ・パン・パスタから選ぶ人もいるだろう。これを考慮集団(consideration set)と呼ぶ。
おそらく山下さんは備蓄米はこの考慮集団に入っていないと考えているのだろう。
その証拠に備蓄米の放出が決まってからさらにコメの価格が上昇している。前週比5キログラムあたり17円高だったそうだ。市場は備蓄米をコメ扱いせず「消費者のお目当てであるブランド米は引き続き品薄なのだな」と感じていることになる。
いわゆる農水トライアングルと呼ばれる人たちはまず備蓄米の流出そのものをJAが抑える戦略に出た。この戦略は農水族で問題意識が希薄な江藤拓農水大臣のもとで成功している。ところがこれは最後の防衛線ではなかった。これが破られてしまったからには次の防衛戦は競争力のないコメを大量放出し備蓄米=まずいという印象をつけることだった。小泉進次郎農水大臣に「減価償却みたいなものでこれなら安く出せます」ともっともらしい説明をし古古米などを大量に出回らせる。
更にタチが悪いことに農林水産省はリーダーシップを発揮したがる小泉大臣に対して「悪い業者が出てくるといけないから価格の透明化もしましょう!」と積極的に提案している。熱血プロジェクトごっこに耽溺している間、祭り上げられている人は彼らが本当に守りたいものに気が付かない。
確かに古古米でもいいという人はいるだろう。ただそういう人たちはコメにこだわりを持たない人でありおそらくコメがなければパンを食べればいいじゃないと考えるはずだ。
ただし冷静になって考えて見てほしい。確かに農水トライアングルは防衛戦には成功しつつある。しかしこれは備蓄米は安くブランド米は高いという印象を与えるだけ。つまり「だったら価格が安定しているパスタやパンでいいじゃないか」という消費者を増やす。中には炊飯器を持たない人も出てくるかもしれない。
結局、農水トライアングルは目の前の勝負にこだわりすぎるあまりに将来の消費者を捨てているわけである。
