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毛沢東主義に傾倒するトランプ大統領

10〜15分

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最近、アメリカ合衆国のリベラル系メディアがこぞって「トランプ政権が毛沢東主義化している」という論評を出している。中央統制経済への憧憬を隠さなくなっており一部文化破壊的な動きも起きているためだ。日本のメディアでは伝えられないだけに驚く人もいるのではないだろうか。

ヨーロッパや日本の生産力回復に伴って製造業大国としての力を失ったアメリカの中流層はレーガン大統領のトリクルダウンセオリーで更に大きな痛手を負った。これが持続可能性を損ねており「革命的な大転換」が必要とされている。これがトランプ大統領の躍進の一つの原動力となっている。

リベラルメディアはこれを理解しつつあり、トランプ大統領の諸政策を「革命」と解釈するようになった。反革命的な既得権からの反論と言える。

CNNは「一部の中国人はトランプ大統領に毛沢東の亡霊を見ている」と言うレポートを出している。またニューズウィークも大学たたきを「反知性的な文化大革命」に結びつける論評を出している。

Axiosはこれを一捻りして「トランプ大統領はMAGAマオイズム(MAGA版の毛沢東主義)だ」と主張する。トランプ大統領が計画経済に傾斜しているという趣旨になる。

日本の知識層には少し注釈が必要かもしれない。既得権打破に熱心な人も多く計画経済にもそれほど違和感を感じないだろう。

日本は戦時統制経済の一部を戦後も維持し続けた。これはいわば「死にそこねた国家社会主義」といえる。終身雇用・国民皆保険・年金制度などはそれなりに機能してきた。また、通商産業省主導の計画経済や「全総」と言った計画経済的な国土整備計画もあった。

議論の中ではあまり意識されていないようだが「コメは足りないのかもしれない」という不安だけでコメの価格が1年で2倍になるような価格高騰が起きているのも「国家が米の流通量をきちんと把握して流通を安堵してくれていないから」である。

エマニュエル・トッドの「家族システム」を引き合いに出すまでもなく、アメリカ人は東洋的な「計画経済」を理解できない。それを理解する文化的背景がないからだ。このためアメリカが中国化しているという分析もどこか杜撰なものになる。

独裁・専制主義と計画経済は本来的に異なる。日本人は国家の所得向上推進と利益の分配と好意的に解釈したがアメリカ人は意思決定が奪われると考える。

本来「計画経済」はソ連でも行われていたが、現在のアメリカのメディアはこれを「中国に特有のもの」と考えている。アメリカ人が持っているイランや中国に対する敵対感情を利用しているのだろう。

さらにトランプ大統領の計画経済に関する考え方もどこか杜撰なものだ。

“We are a department store, and we set the price,” Trump told Time when asked about tariff rates. “I meet with the companies, and then I set a fair price … and they can pay it, or they don’t have to pay it.”

Trump’s new nationalism(Axios)

トランプ大統領はアメリカ合衆国を一つのデパートと喩えて自分を経営者に位置づけている。そして商品仕入れ担当者として会社にあって「ふさわしい価格をつける」と言っている。納入先はこの取引に応じてもいいし応じなくても良いというわけだ。

全体としては計画・統制経済に傾斜しつつもその概念的モデルを持たないために「デパート」を引き合いに出さざるを得ないのだろう。

一方で士官学校の卒業式において貿易を戦争に例えてもいる。外国はアメリカをむしり取ろうとしているのでそれと戦うのだと宣言している。これはデパートモデルではなくアメリカ革命モデルだ。かつての大統領が国王の収奪からアメリカ人を守ったように今度は外国の収奪からアメリカ人を守るのだと宣言している。

  • Then, he moved on to promoting his trade policies, accusing other countries of “ripping off” America.
  • “You have to watch what we’re doing on trade,” he said.
Trump at West Point graduation lauds “Golden Age” as anti-DEI and pro-defense(Axios)

中国のような父権主義の強い国では「力の強いリーダー」が人民に等しく分配してくれるはずだという期待がある。しかし個人主義のアングロサクソン諸国にはそのような考え方はない。

結果的に意思決定の独占はトランプ大統領一族の富の独占につながる。ミームコインの会合にホワイトハウスの権威を利用しつつ「大統領の職務とは関係がない」と説明しているのはその一つの例だ。一部のアカウントにのみ収益があったことがわかっており、外国からの影響も懸念される。

トランプ大統領は中流階級を助けてくれると信じた人たちは自分たちの意思決定が間違っていたと認めたくない。このためトランプ大統領の経済破壊や私物化を正当化し続けている。トランプ大統領の間違いを認めることは自分たちの見る目がなかったことを認めることになりとても許容できるものではない。

しかしこれは結果的に自己困窮化にしかつながらない。「革命とはそういうものなのだ」と言われればそうなのかもしれないがやはり理不尽なものは残る。

Bloombergによるとアメリカの家計は悪化しており経済政策に対する不満も高まっているそうだ。

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