トランプ大統領がハーバード大学を脅迫したとしてQuoraでは大変話題になった。一夜明けると今度はAppleが恐喝されている。アメリカで製品を作っていないのがケシカランというのだ。この両者には共通点がある。それが庶民の恨みである。大衆民主主義の一つの終着点と言える。
最近、中野剛志氏の新刊が出たそうでネットでは盛んに中野氏の番組が流れている。アメリカがバブルを使って消費し日本や中国などの製造業国が黒字を蓄積する「グローバリズム」は持続可能でないと主張している。中野氏によればアメリカの有権者は中間層の不遇に怒っており、これがトランプ政権を誕生させたことになっている。
きっかけは1980年代レーガン政権のトリクルダウンセオリーだった。
金融がもてはやされたが中間層は没落した。しかしながら中間層の没落はそれ以前に始まっていたと考える人も多い。アメリカからはすでにピューリタニズムが失われ製造業でコツコツと稼ぐという美風も失われていたとされる。
ウォールストリートや富裕層は格差に対する怒りが自分たちに向かうことを恐れている。またトランプ大統領に代表される不動産業者も似たような気持ちがある。そこで攻撃の矛先を何処か別のところに向けなければならない。
そのために狙われたのがハーバード大学やコロンビア大学だ。ノーム長官は留学生受け入れ停止は他の大学に対する警告だと明言している。今回留学生受け入れ停止処分を食らったハーバード大学だけでなくコロンビア大学も「ユダヤ系の公民権を侵害した」と批判しているが、おそらくユダヤ系は単に道具として利用されているだけだろう。
ハーバード大には全学生の27%に当たる6800人の外国人留学生が在籍している。全米教育統計センター(NCES)の統計によると、2023年には学生数が1000人以上の43校で外国人留学生の割合がさらに上昇した。
米ハーバード大にトランプ政権が圧力、外国人留学生制限で大学財政に痛手(REUTERS)
トランプ政権から反ユダヤ主義的だと非難されているコロンビア大学では、2023年に外国人留学生が全学生の39%を占めていた。1000人以上の学生が在籍する他の246校でも、少なくとも10%の学生が外国人だった。
米ハーバード大にトランプ政権が圧力、外国人留学生制限で大学財政に痛手(REUTERS)
ノーム長官はトランプ大統領の暴走するエゴのような存在だが、トランプ大統領自身もEUやAppleに対する関税を示唆した。貿易交渉がうまく進んでいないのだろうがヨーロッパの株価が大幅下落したそうだ。
トランプ政権は格下の国との交渉には成功しつつあるがEUは強硬姿勢を崩していない。アジアを担当するベッセント財務長官は成果を上げつつあるそうだがEU二対処するラトニック商務長官は苦戦しているようだ。
「知的で自信がある」ほどトランプ政権に逆らう傾向がある。これを屈服させたいトランプ政権は恐喝を繰り返す。すると反知性主義・反グローバリズムの人々がトランプ政権に期待を寄せる。そんな病的な構図ができている。
EUに加えてApple社も関税恫喝の対象になっている。
インドに工場を移転させようとしているが「アメリカ合衆国でつくらなければダメだ」というのだ。今回の文脈に合わせるならば「意識高い系が好みそうなおしゃれなハイテク機器を作っている会社」が狙われていると考えたほうがいいのではないだろうか。
どんなに望んでもアメリカ合衆国はAppleの基準合致するような部品は作れない。そもそもアメリカ人は製造業に対する意欲を失っているがその兆候は1980年以前に現れていた。ABCニュースによると識者はアメリカに工場を移転する条件として「完全自動化」を挙げている。つまり労働者が調達できないから完全機械化を実現しないかぎりアメリカに工場を持ってくることは出来ないと言っている。
Axiosはハーバード大学に対する恫喝はアメリカのイノベーションを削いでしまうと言っている。Axiosはこれを予期せぬ副作用として提示しているのだが、実際にはこれこそがトランプ政権の(意識しているかしていないかは別にして)狙いと言えるだろう。
Apple製品に手が届かなければ潰れてしまえばいいわけだ。これはハーバードやコロンビア大学に対する妬みと同様だ。どんなに望んでもハーバードやコロンビアに入れない人は「中国人に明け渡すくらいなら潰れてしまえ」と感じるだろう。
作ったり追いついたりするより破壊するほうがよっぽど簡単だ。中国の人民の中にはトランプ政権は文化大革命に似ていると考える人がいるそうだがあながち間違っているとは言い切れない。
ここまでを見ると日本や中国のような国がアメリカで稼ぐというやり方は持続可能でなく日本も方向転換を余儀なくされるだろうという予測に落とし込みたくなる。つまりこれはかろうじて今の日本を支えてきた自動車産業の落陽ということになる。
ただトランプ大統領は明確に自分が何をやっているのかは意識できていないようだ。なんとなく「反知性主義はウケる」ということは感じているようだが、関税の水準に関してはよくわからなくなっているようで対EU50%関税を「推奨する」という言い方で、ABCは””つきで表現している。
Minutes later, Trump issued a social media post slamming the European Union over a trade posture that he described as “very difficult to deal with.” In response,Trump said he is “recommending” a 50% tariff on goods from the European Union to begin on June 1.
Stocks slide as Trump threatens tariffs on Apple and European Union(ABC News)
過去の対中国関税ももともとは145%だった。
しかしこれも根拠があるわけではなく、後に
- 80% Tariff on China seems right(中国に対する関税は80%くらいがちょうどいいようだ)
と修正されている。
民衆のいらだちからグローバリズムは大きな消費センターを失いつつありそれに伴って日本のシステムも崩壊しようとしている。もはや関税交渉など大した問題ではない。
しかし日本人は議論によって総意まとめることは出来ず場当たり的な対応を続けながら今回の出来事もリーマンショックと同じようにアメリカ発の津波として受け止めることになるのかもしれない。我々にできるのは逃げることと生き残ることだけということになる。

Comments
“ハーバードに続いてAppleを恐喝するトランプ政権” への2件のフィードバック
反ユダヤが口実にされてる件ですが、半分は確かにそうかもしれないでしょうね。ただもう半分はあの人達が抱いてる正しいユダヤ人像を押し付けてる面も
あるのではないかと思います。
あの人達にとっての正しいユダヤ人ってのはネタニヤフ首相や彼を下支えしてる
極右勢力の人々、そしてパレスチナ人を追い出して平気で入植して尚且つ何の
呵責も無い人達だけなのではないかと。
ですのでユダヤ系でもパレスチナ問題に心を痛めてて行動を起こしてる人達は
反ユダヤとして扱われてるかと思います。
ユダヤ系の中にはネタニヤフ首相を好ましく思っている方もいらっしゃると聞いています。
BBCは次のように書いています。
こうした中、ワシントンには数千人が集まり、ネタニヤフ氏に対する抗議行動を起こした。ユダヤ系も大勢が参加し、ネタニヤフ首相やイスラエル国家が「世界のユダヤ人を代表しない」などのプラカードを掲げた。
確かにこういう人たちも「反ユダヤ」に分類されているかもしれないですね。