9,100人と考えAIとも議論する、変化する国際情勢とあいも変わらずの日本の行方


Habeas corpus(人身保護令状)

7〜11分

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トランプ政権の「事実を軽視する姿勢」がかなり目に余る状態になっている。ノーム長官は「大統領には人々を追放する権利がある」と議会で主張した。その目は据わっており確信犯的な迫力があった。

トランプ大統領は南アフリカのラマポーザ大統領をホワイトハウスに招いて「南アフリカが白人を虐待している証拠」のビデオを一方的に上映した。外国首脳を招いてその目前で「切り取り」を展開し恥をかかせるという暴挙である。

バンス副大統領は司法が行政をチェックするなど間違っていると主張している。単一行政理論という考え方に基づく。

アメリカ合衆国憲法には政府が根拠なく人々を拘束してはいけないとする取り決めがあるそうだ。これをHabeas corpus(人身保護令状)と呼ぶそうである。日本でも憲法34条がこの考えに基づいて導入されているという。

議会は安全保障担当のノーム長官にHabeas corpusについて聞いている。ここでノーム長官は「大統領には人々を取り除く(remove)権利があります」と答え民主党の議員に「それは違います」と否定されていた。Removeというモノを扱うような動詞の使い方には唖然とさせられる。

しかしながら聴聞の様子を見るとノーム長官の目は据わっている。長官の職位は憲法に対する忠誠心ではなく大統領に対する陶酔によって保証されているということがよく分かる。いわば確信犯的な迫力がありトランプ政権の中枢が明らかに暴走し始めていることがわかる。政治体というよりは宗教組織に近い。

この暴走の原因の一つが最高裁判所のトランプ大統領に対する期待だ。最高裁判所はトランプ大統領が法定を無視して南スーダンに移民を移送したことには反対しているが、ベネズエラ人の不法移民35万人の保護打ち切りは容認している。司法の権威が損なわれることはよしとしないものの非白人の数を減らすためのトランプ政権の政策は容認しているのである。

バンス副大統領は司法に対して「司法が行政をチェックするなどという考え方は間違っている」と主張している。三権分立を否定し「民衆に選ばれた大統領と副大統領こそが至高の権力である」と主張する。単一行政理論と呼ばれる。

もともと、アメリカが白人国家ではなくなるかもしれないという焦りがあり、これが行政の冗長につながっている。司法には自分たちが監視していれば憲法秩序は守られるだろうという奢りがあったのだろうが、行政はその奢りを軽く吹き飛ばした。

このようにアメリカ合衆国の政治は明らかにおかしくなりつつあるが、その中心にいるのはもちろん「我ら」がトランプ大統領だ。南アフリカに対して「白人を虐待しているから保護が必要だ」と言いがかりをつけている。

経済報復を恐れるラマポーザ大統領はホワイトハウスを訪れ釈明の機会を作ろうとした。トランプ大統領はこの機会を「上映会」にして南アフリカ政府が白人農夫を虐待している証拠とされるビデオを放映したそうだ

確かに南アフリカでは様々な犯罪が横行している。また白人が土地を独占しているという事情があり極左の白人排外政党(経済解放の闘士)が躍進しているのも事実である。

しかしながら「白人だけが選択的に迫害されている」との主張にはかなり無理がある。政治素人であるゼレンスキー大統領は同様な処遇に切れてしまったがラマポーザ大統領は比較的冷静に「それは間違っている」と指摘していた。いずれにせよトランプ大統領の「カード」を持っていない人たちに対する扱いは極めてぞんざい。

もともとはこのまま自然にまかせているとアメリカ合衆国が白人中心の国ではなくなってしまうという焦りがあったのだろう。これ加えてレーガン政権で導入されたトリクルダウンセオリーの失敗が重なる。アメリカの中間層はわかりやすく没落し「失われた権利の回復」を訴えている。

しかしながらこうした焦りと隠された動機はアメリカ合衆国の憲法秩序と「自由の国」という基本的価値観を根底から覆しつつある。そしてそのスピードは我々が考えるよりずっと早いものだ。

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Comments

“Habeas corpus(人身保護令状)” への2件のフィードバック

  1. 匿名を希望のアバター
    匿名を希望

    少なくともノーム長官を含めた中枢の人らはトランプ大統領に幻想を抱いてる
    のは間違いないかと思われます。あの人達からしたらトランプ大統領はモーゼや
    北斗の拳のケンシロウの様に見えてるんだろうなと。建前社会を掲げて自分達
    を弾圧するうえに自分達に不当な扱いをし続けるリベラルや左派共を叩きのめ
    して屈服させてくれて自分達を救い出してくれる救世主を長年待ちわび続けて
    たでしょうから尚更なんでしょう。
    実際ここまで極端じゃなくても傍流の立場に置かれ続けてる人が自分の価値観と
    合致した相手に過剰な幻想を抱いてるケースは割とありますからね。信仰に近い
    所はあるから余程の事が無い限り目を覚ますことは無いから厄介ですよ。

    1. ミームコイン晩餐会の参加者の中にも「硫黄島」と例える人がいたそうですから何らかの「革命」を夢見る人はいるかも知れないですね。