高まる消費税減税要求を承けて石破総理が「日本の状況はギリシャより悪い」と虚偽の発言をした。ダメな総理だとは思っていたがここまでとは思わなかった。石破総理では参議院選挙は乗り切れないだろう。Xでは石破総理は財務省の言いなりになっているとの意見が多く見られた。
- 石破総理が日本の財政状況はギリシャより悪いと説明した。財源なき消費税減税を戒めたものと見られる。
- 日本経済は過去最高の経常黒字状態でむしろ「金満」状態にある。
- 一方でギリシャの経済危機には次のような背景がある。
- 国家を牽引する経済が育たないなかで高い社会保障を維持し公務員の数を増やしてきた。
- 当然国家を支えるための過去の蓄積がなかった。
- またEU加盟国であるため財政政策の自由度がない。ドイツは通貨益を享受したが周縁国の通貨はむしろ割高になる。
- さらにパパンドレウ政権が旧政権の赤字隠しを暴露したため突然大騒ぎになった。
- このため日本とギリシャを比べるのには無理があるが石破総理は前提条件を無視している。
- NRIは「米国債格下げとギリシャよりも悪い日本の財政」という記事を書いている。大筋では石破総理の発言は正しいとしているがMMTの議論の復活を危惧している。
- 日本の財政問題は
- 国家は金満状態にあるのに政府は借金を抱えていることが問題であり
- 背景には企業の政府や社会に対する不信感と国民の将来不安に起因している。
- しかしながら、石破総理の乱暴な議論はこうした不信・不安・不満を解消せず、却って消費税さえ減税されれば問題は解決するのだという単純化された議論を加速化させるだろう。
石破総理が国会で次のような発言をした。
参院予算委員会で、浜野喜史氏(国民民主党)の質問に答弁した。石破首相は「金利がある世界の恐ろしさをよく認識をする必要がある」と指摘した上で、日本の財政状況は「間違いなく極めてよろしくない。ギリシャよりもよろしくない状況だ」との見解を明らかにした。
石破首相、日本の財政はギリシャより「良くない」-減税をけん制(Bloomberg)
しかしながらこの発言は根本的なところが間違えている。ギリシャは独立以降ポピュリズム的な政権が続いた。造船業が有名だがその他に目立った産業がない。このため政権は公務員の数を増やす失業者対策を行い身の丈に合わない社会保障を通じて国庫を疲弊させていた。2010年にパパンドレウ政権が前政権の財政赤字隠蔽を暴露したことで大騒ぎになり「ギリシャ危機」などと言われるようになった。
NRIはギリシャがEU経済圏の一部であることを根拠にMMT論者が台頭するのではないかと恐れているようだ。日本はギリシャと違って独自の財政運営が行えるため「いくら借金を増やしてもギリシャのようなことは起こらない」という人がいるのだそうだ。
しかしながらそもそもギリシャと日本では「ステージ」が違う。日本は成熟した債権国から債権取り崩し状態に移行しつつある国で過去の蓄積がある。また経常収支は過去最高を記録している。むしろ現在の蓄えを使って新しい産業を育成する方向にシフトチェンジしなければならない。
では日本経済は好調なのに日本政府の状況はギリシャより悪いのはなぜなのだろう。理由は2つある。第一に企業が政府を信頼しなくなった。日本の高度経済成長期の成功は企業や個人の蓄えを日本政府が一括して次世代のために投資することで成り立っていたが、このサイクルが崩れてしまった。サイクルが崩れ金回りが悪くなると企業は国内に投資しなくなり個人は消費を控えて老後の備えを増やすようになった。
このため「支出を抑えよう」とする傾向が強い国になっている。平たく言えば「ケチ」になっているのだ。今あるカネを有効利用して次世代のチャンスを増やそうという金持ちの発想に切り替えられなかったのが自民党政権の失敗につながっているのだろう。お金の使い所がわからないのである。日本人の発送はせいぜい昭和という押し入れから万博というホコリまみれの「夢」を引っ張り出してくる程度だったが、それでさえ「無駄遣いだ」と批判された。
総理大臣に求められるのは金回りの悪さの原因となっている不信感を払拭することにある。しかし、石破総理にはそのような能力はなさそうだ。
「ギリシャ」でXを検索すると「前提条件が違うのでは?」と冷静に発言している人もいる。
しかし、大半はMMT議論のときに聞きかじったような自説を展開しておりNRIの懸念は当たるかもしれないと感じる。「やっぱり財務省の言いなりになっている」という印象論が中心だが、日本の政治議論が思い込みに支配され一つの方向に突き進む傾向がある。
極めて皮肉なことだがギリシャの財政危機の原因となったポピュリズム路線に日本が突き進む布石を石破総理が打ったような状況になっている。
